第5章 マシュマロとガトーショコラ
「俺と松田は警察学校の同期なんだよ。お互いに今の部署に入りたくて警察学校に入学したから、最初はお互いに対抗心燃やして、よく張り合ってたなぁ。」
警察学校在学時の成績によって、希望部署に配属される可能性が変わってくる。良い成績を修めた者は、それだけ希望に沿った配属をされる。逆もまた然り。
次第に互いのことを認め、信頼関係を結び今の関係に至ったが、入学当初は互いに自分の技能に自信を持っていたがために、自分と同じような存在である互いのことを意識していて、萩原と松田は何かと張り合ったものだ。
萩原の言葉に松田も、あー懐かしいと声を上げる。
「実技は当然として、走り込みとか柔道とか剣道、筆記テストとか、成績出るやつは全部張り合ってたよな。」
お互いにコイツだけには負けないと意識して、何かにつけて張り合っていた日々を二人は懐かしむ。
その瞳は柔らかく二人が在りし日に思いを馳せていることが、杏奈にもわかった。なんだかんだと充実した日々は、今もキラキラと二人の胸の中で輝いている。あれは紛れもなく、萩原と松田の青春だ。
んで…と松田はそのまま言葉を続ける。
「「教官と降谷に説教された。」」
松田の声と萩原の声が揃う。
見事にハモった二人は互いに顔を見合わせると、同じタイミングで破顔して笑い声を上げた。
対抗心から何かと張り合う萩原と松田は、ヒートアップして周りを巻き込むことも少なくなかった。その度に教官と真面目な友人に止められ、揃ってお説教されたことも、今となってはいい思い出である。
「教官よりも降谷の方が酷かったよな。アイツ直ぐ実力行使に出るしよ。」
「そうそう。見た目に反して意外と短気なんだよねぇ。そして加減を知らないっていうさぁ。」
松田と萩原の同期であり友人ーー降谷はとても真面目な青年で、よく二人のケンカの仲裁をしていた。
しかし真面目すぎる故か、力加減が些か下手だった。
正直お前とのケンカより降谷に仲裁された時のほうが怪我してたぜと苦い顔をする松田に、あー…と萩原も苦い顔をして遠くを見る。