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アフタヌーンティーはモリエールにて

第5章 マシュマロとガトーショコラ


「立ち姿とか隙のない雰囲気もそうですけど……お店に入ってきて直ぐに入り口や窓の位置を確認していたようなので。あれって逃走経路を確認してたんですよね?天井や植え込みなんかの方も確認してましたし。話しながらときどきお客さんたちの顔も確認してたから、松田さんと同じ部隊所属なのかなぁと。」


萩原が入店して真っ先に行ったのは、扉や窓の位置の確認。これは逃走経路を導き出すため。
天井や植え込みを確認してしまったのは、一般的に爆発物を仕掛けられやすいと言われている場所だから。
そしてお客の様子を注意深く見てしまうのも、不審な動きをする人間がいた場合、直ぐにでも対処できるように。

何かあった場合に直ぐに対処できるような隙のない立ち姿や、鍛え上げられた肉体だけでは、何処の所属までかは分からない。
しかし、職業病とも言える萩原が無意識にやってしまった目の動きは、爆発物の処理を主に行なっている人間の動きだった。

普通の人間ならば見落としてしまうような僅かな動きから、萩原が松田と同じ機動隊の爆発物処理班に所属していると見抜いた杏奈の洞察力に、萩原は唖然とする。
そんな萩原に松田はクツクツと面白そうに笑った。


「ミステリーとか推理もの読んだりするうちに身についたらしいぜ。」


俺も最初にやられた時ビビったと笑う松田。
実は松田が杏奈に自分の職業を教えたのは、今の萩原と全く同じことをされたという経緯がある。

杏奈の洞察力と観察眼は、ミステリーや推理ものを読み漁り身に付いた知識と、自身も小説を執筆するようになってからするようになった人間観察の賜物だ。
しかしそれが一般人のレベルを遠に逸脱した域まで達しているのは、杏奈の才能とも言えるもともとの資質があってこそである。

こりゃあ驚いたなぁと眉を下げて微笑む萩原に対し、自分の才能を自覚していない杏奈は首を傾げた。そんな彼女を松田は声を上げて笑い、その全く意味を理解していない反応に、面白いと笑いそうになるのを堪えて萩原は忘れかけていた彼女の質問に答える。
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