第5章 マシュマロとガトーショコラ
「ミステリーが好きなのは合ってるんですけど、ここでバイトしたきっかけは、店長の紅茶に惚れちゃったからなんですよー。」
杏奈がバイトを始めたきっかけは、店長である森の淹れた紅茶に衝撃を受けたからだ。もともと彼女は大の紅茶好きで、自分でも少しでも美味しい紅茶を淹れられるように勉強している。
何より、ミステリー好きが集まり始めたのは杏奈が働き始めてからだ。それ以前は近所の人間の集会所という印象だった。
説明する杏奈に、あぁだから紅茶の話!と萩原は松田の説明の中にあったそれに納得する。
「そもそもこの店にミステリー好きが集まる原因、コイツだからな。」
杏奈の悪い癖が原因でミステリーに興味を持つお客が増え、それが嬉しくて彼女が私物のミステリー小説を店に置いて貸し出すようになり、その評判を聞いてミステリー愛好家たちがモリエールに集まるようになったのである。
コイツ有名どころからマイナーな作家の本まで読んでるジャンキーだからと、松田は呆れたような、どこか楽しそうに言う。萩原はなるほどねぇと、ミステリー好きが集まる理由が分かって、同じく呆れたように杏奈を見た。
二人から呆れたような視線を受けた杏奈は、私からも質問したいんですけどーと小さく挙手する。もちろんと萩原が微笑むと、では…と杏奈は口を開いた。
「萩原さんも警察官ですよね。もしかして、配属先も松田さんと同じですか?」
杏奈の言葉に、萩原は目を見開いた。
萩原は自己紹介の際に"松田の友人"としか言っていない。松田がどこまで説明しているか、分からなかったからだ。
にも関わらず、ズバっと言い当てた杏奈に驚いた。
そうだけど…どうして分かったの?と疑問を口にする萩原に、杏奈はこてんと首を傾げる。何をそんなに驚いているのだろうかと。