第5章 マシュマロとガトーショコラ
ケーキスタンドには一口サイズの可愛らしい品々が、ちょこんと行儀よく鎮座している。
一番下の段には、それぞれ具材の異なる、正方形のサンドウィッチ。
真ん中の段には、甘いバターの香りを漂わせるスコーン。
そして一番上の段には、シュークリームやフルーツタルト、ショートケーキやガトーショコラ、ムースやゼリーが美しく盛り付けられている。
見た目も美しく可愛らしいそれは、たしかに女性が喜びそうだ。
そして自分の分のグラスを置いた杏奈は、極自然な動きで松田の隣に腰を下ろした。
今日はじめて会ったばかりの萩原の隣よりも、以前から知っている松田の隣のほうが気持ちが楽だからという理由で腰掛けただけの理由なのだが、あまりにもその動作が自然で。
松田は目を丸くして、へぇーと萩原は意味深な笑みを浮かべた。
しかし二人の反応に当人は気付かず、杏奈は呑気にとり皿に適当にケーキスタンドの上のものを取り分ける。
警察官二人と喫茶店店員の女子高生という、少々ーーかなりーー風変わりなお茶会が始まった。
「そう言えば、杏奈ちゃんは松田と前から付き合いがあるんだっけ。」
取り分けられたものに萩原が感想を漏らし、それに対して杏奈が説明し、松田が相槌を打つことをしばらくして、ケーキスタンドの上が寂しくなってきた頃、萩原が唐突に問いかけた。
もむもむとシュークリームーー萩原が二人では食べきれないから食べていいと勧めてくれたーーを食べていた杏奈は、んくっと口の中にあったものを飲み込むんでから口を開く。
「はい。以前、雨に降られた松田さんが雨宿りにきたのが最初で、それ以来なんどかご来店してくださって、ときどき相席してお茶飲みながらお話したりしてます。」
「外で雨宿りしようとしてたのを、無理やり店内に引っ張り込んだの間違いだろ。」
杏奈の説明を空かさず松田が訂正する。
もともと軒先きで雨宿りしようと思っていた松田を、杏奈が有無を言わさぬ笑顔と態度で店内に招き入れたのだ。無理やりと言ってしまえばーー少なくとも松田からすればーーそうだろう。
松田の言葉に、えー?と納得しないと不満の声をあげる杏奈に、他の客にはすんなよ店の評判にかかわるから、ニヤリと笑って紅茶に口をつけた。