第5章 マシュマロとガトーショコラ
しばらくして目の前に運ばれてきた食事と飲み物に舌鼓を打ち、互いに気軽なやり取りをしながらあっという間に完食。
食後の一杯を飲んでいると、お疲れさまでしたぁと杏奈の気の抜けた声が聞こえてきた。シフト終わりの杏奈が貴重品を持ってスタッフルームへと向かうところだ。
「杏奈ちゃーん。」
スタッフルームの扉に手をかける彼女を、萩原が呼び止める。
来い来いと手を招く萩原に、もう今日の仕事が終わった杏奈は顔をしかめたが、店員として呼んでいるわけではない様子に、ぽてぽてと歩み寄ると、なんですかー?とこてんと首を傾げた。
もう仕事終わり?と問いかける萩原に、松田はまさかと顔を顰める。しかしまだ自分が呼ばれた意味を理解できていない杏奈は、そーですよーとのんびりと答えてしまった。
向かいに腰掛ける友人の様子に気付きながらも、萩原は杏奈の答えにニッコリと深い笑みを浮かべる。
「よかったらさ、一緒にお茶飲みながらお話しない?」
萩原の言葉に、松田はやっぱりかと深いため息を吐いた。
一方の杏奈は、萩原の言葉にぱちくりと瞳を瞬かせる。
「どうしてですかー?」
以前、お気に入りの場所に座りたいからと相席を自ら申し出てきたことから、杏奈が人見知りではないと知っていた松田は、予想外の答えにサングラスの奥の瞳をわずかに見開いた。てっきりいいですよと、二つ返事で頷くと思っていたのだ。
直ぐに返事は出さず問いかける杏奈。
一歩間違えばお高くとまっていると思われるかもしれないが、彼女の様子は純粋に疑問を口にしただけという様子で、全く嫌味がない。
萩原はそんな杏奈の反応に、やっぱり面白いと心の内で笑うと、メニュー表を指差して口を開く。