第4章 アッサム、ときどき、カモミール
そもそも友達じゃあないもんねー。
杏奈と松田は先日知り合ったばかりで、面と向かってこうして会話らしい会話をするのは、今度が初めてのこと。殆ど他人と言ってもいい。そんな相手といきなり飲み物の回し飲みは、殆どの人間が遠慮するだろう。
今度淹れてあげようと心に決めて、杏奈はすみませんと差し出していたグラスを引っ込めた。
「……え?」
グラスを持っていた手に熱を感じて、杏奈は思わず声を漏らす。
それはグラスを持つ杏奈の手に、松田の手が重なったからだ。
自分の手を包み込む大きく節くれだった男の手を、杏奈が呆然と見ていると、引っ込めたグラスが杏奈の手ごと引っ張られて。
「……うん、美味いな。」
杏奈の手ごとグラスを引き寄せた松田は、刺してあったストローを口に含むと、中身を吸い上げた。
口内に広がるオレンジの爽やかな酸味と、カモミールティーの甘くやや渋みを感じる味わいとリンゴのような香りは、たしかに相性抜群で夏場の暑い時期にはピッタリだと言える。
ストローから口を離し、松田は掴んでいた手の力を抜いた。
しかし重ねた手は離さない。
じっと杏奈を見つめていると、彼女はぽけーっと松田を見ていた視線を、そろりそろりとテーブルに落とす。
「えぇーと……、気に入っていただけたようで、よかったデス?」
視線をテーブルに落とした杏奈は、ゆっくりと松田の手の中から自分の手を引き抜いた。
しかし松田の手から解放されても、手にはしっかりと感触が残っていて。松田の熱が移ったかのように熱い自分の手を、杏奈は自分の手で包み込んだ。
杏奈の様子に、松田はフッと小さく笑いを零す。
杏奈は自覚していないが、彼女の頬はほんのりと紅く色付き、碧い瞳は生理的な涙の幕でうるうるとしていて。大変可愛らしい顔をしている。
要するに、杏奈は照れているのだ。
自分からグラスを差し出したのに、頬を染めて初々しい反応をする杏奈に松田はニヤニヤする口元を押さえきれない。