第4章 アッサム、ときどき、カモミール
一見するとふつうのオレンジジュースのようだが、オレンジの爽やかな香りに混じって、ふわりと花のような香りがする。
先ほど席を代わる際に気付いたことを松田が言うと、杏奈の瞳が一層輝いた。
「これ、オレンジカモミールティーなんです!」
杏奈の飲んでいるのは、松田の言う通り普通のオレンジジュースではない。
濃いめに淹れたカモミールティーをオレンジジュースで割った、オレンジカモミールティーだ。
カモミールティーはやさしい口当たりとりんごに似た香りが特徴で、柑橘系のオレンジとは相性抜群。夏場の暑い時期には、爽やかなオレンジカモミールティーはぴったりの一杯なのだ。
「へー。美味そうだな。」
杏奈の説明を聞いて、松田は素直な感想を口にする。
今度きたときに淹れてもらおうかと考える松田に、こてんと杏奈は首を傾げた。
「よかったら、少し飲んでみます?」
言いながら杏奈は、自分が飲んでいたグラスを松田に差し出した。
素直に思ったことを言っただけで、全くそんなつもりのなかった松田は、思わずぽかんとしてしまう。
そんな松田に杏奈は、変わらず小首をかしげて見ていて。
コイツ、大丈夫か?
会話らしい会話をするのが初めての自分に、気軽に自分が先程まで口を付けていたグラスを差し出す杏奈に、松田は不安になってしまう。穏やかでマイペースな性格だということは、前回のやり取りで理解していたが、それにしてもあまりにも警戒心が薄すぎるのではないか。
紅茶に釣られて妙な男に着いていきそうだ。
現役の警察官である松田は、そんな想像をして更に心配になってしまい、頭が痛くなり思わず片手で頭を抑えた。
しかしそんな松田の心など分かるはずもない杏奈は、頭痛いのかなと、自分の事で頭を抱えている目の前の男を、心配そうに見る。
「あー。松田さんって、回し飲みダメな人ですか?」
頭を抱えたままグラスに手を伸ばす様子のない松田に、杏奈はそう解釈した。
杏奈自身はそういったことを全く気にせず、友人たちと飲み物の回し飲みなど日常的にしている。しかし世の中そういう人たちばかりではない。
申し訳ないことをしてしまった。
配慮が足らず松田に悪いことをしてしまったと、杏奈は反省する。