第4章 アッサム、ときどき、カモミール
ストレートで飲む機会があまりなくーーそもそも松田は紅茶自体そんなに飲まないのだがーー感心したように言う松田に、オレンジジュースを飲んでいた杏奈の碧色の瞳がキラリと輝いた。
「それはですねー、アッサムをストレートティーで美味しく飲むにはコツがいるんですよー!」
アッサムティーは、深いコクと甘みが特徴で、味わいが深いためストレートで飲む場合、ふつうに淹れてしまうと強い渋みを感じてしまう。これがミルクティーに最も適していると言われる要因だ。
アッサムティーをストレートティーとして飲む場合は、茶葉の量を少なめにして、更に90℃前後の比較的ぬるめのお湯で抽出すると良い。ほのかな甘みを余韻として楽しめる、美味しいアッサムティーになる。
キラキラと瞳を輝かせ両頬を手で包みとろけるような笑みを浮かべる杏奈。
「アンタ、本当に紅茶が好きなんだな。」
紅茶に力を入れているこの店で働いているのだから、紅茶に詳しいのは当然なのかもしれない。だが、紅茶の話をする杏奈の瞳はキラキラと輝き活き活きとして、彼女が仕事以上に情熱を持っていることがわかる。
紅茶淹れてるときも幸せそうな面してるもんな。
松田の頭に浮かぶのは。杏奈が紅茶を淹れている姿。
杏奈は気付いないが、紅茶を淹れているときの彼女は常に笑顔でとても楽しそうであり、幸せそうにしている。無意識に鼻歌まで零すくらいに。
「はい、大好きです。」
松田の言葉に、杏奈は紅茶の葉が開くように、ふわりと柔らかく微笑んだ。
てっきりまた前のめりにデレデレとした笑みを浮かべるものだと思っていた松田は、予想外に綺麗に微笑む杏奈にドキリと心臓を跳ねさせる。
更には大好きですと、ストレートな言葉を使うものだから、心臓のあたりがざわりとして落ち着かない。
しかしここで取り乱すのは松田のプライドに反する。
松田はざわつく心を落ち着けるように、杏奈が淹れた紅茶を口にしてから、そう言えばと話題転換を試みる。
「さっきから気になってたんだが、アンタのそれ、普通のオレンジジュースじゃあねぇよな。」
それと松田が指差すのは、杏奈の口にしているオレンジジュースだ。