第4章 アッサム、ときどき、カモミール
相席を申し出ておいて、更に席を代わってほしいとお願いするのは図々しいと遠慮していた杏奈だが、松田の方がずっと図々しいお願いをしてきた。ならば遠慮することはないだろう。
へらりと微笑みながらも、謎の威圧感を醸し出す杏奈。
やっぱりコイツ面白い。
断らせるものかと雰囲気で語る杏奈に、松田は声を出して笑ってしまいそうになるのを堪えて、いいぜと彼女の条件を飲んだ。
松田の返事を聞いた杏奈は、上機嫌に微笑むと軽い足取りでカウンターへと向かった。
「てんちょー。またキッチンお借りします!」
カウンターに近付いてきた杏奈に、森は一瞬だけ驚いたような表情を浮かべたものの、直ぐに理由を察していいですよと快諾してくれた。
森に一言お礼を告げると、杏奈は早速紅茶を入れ始める。
手慣れた様子で紅茶を抽出させて、ティーカップに注いだ杏奈は、続いてお皿にビスケットとスコーンを盛り付けた。もちろん、クロテッドクリームとジャムを添えることも忘れない。
ティーカップとお皿をトレンチに乗せた杏奈は、松田の待つ席へと戻った。
「お待たせいたしましたー。アッサムティーとアフタヌーンティーセットです。」
言いながら杏奈は、松田の目の前にアッサムティーの注がれたティーカップを、テーブルの中心にビスケットとスコーンが盛り付けられたお皿を置く。
松田は言われた通りソファー席から椅子に移っており、杏奈は定位置であるソファー席の隅に腰を落ち着けた。
松田はどーもと軽くお礼をつげると、早速目の前のティーカップに手を伸ばす。
ティーカップには杏奈の淹れたアッサムティーが注がれている。
深く鮮やかな赤茶のそれからは、芳醇な香りが立ち昇っている。アイスティーではなく、ホットだから余計に薫り高く松田を包み込んだ。
松田はティーカップに口をつけて傾けた。
瞬間広がるのは、濃厚なコクと甘み。そして一層深く感じる芳醇な香り。
「アッサムって、ミルクティーのイメージがあったんだが、ストレートでも美味いもんだな。」
ホッと息を吐いて、松田は口許を緩める。
アッサムは濃厚なコクと甘み、そして何より強い香りが特徴の茶葉だ。そのため、ミルクティーにして味わうのに適しているとされている。