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アフタヌーンティーはモリエールにて

第4章 アッサム、ときどき、カモミール


「そこ、私のお気に入りの席でしてー。相席してもいいですかぁ?」


松田の座っている壁際の角の席は、杏奈のお気に入りの場所だ。
今日のように午前シフトで仕事を上がったときはもちろん、休憩中に賄いを食べるのもこの場所である。お客の邪魔にならないこの席から店内の様子を眺めながら、読書をする時間が杏奈は大好きなのだ。

今日も午前シフトで仕事を上がった杏奈は、いつものように穏やかな時間を過ごそうと思ってきたのだが、そこには既に松田が座っていて。
しかしわざわざ席を移動してもらうのも忍びない。ならばいっそ相席させて貰えばいいではないかと、杏奈は考えたのだ。

思ってもいない杏奈の申し出に、松田はまたしても瞳を見開く。彼女といると驚かされることが多いのは、気のせいではない。

むしろそっちが良いのかよ。
一度だけ店に訪れただけの客である自分と相席して、気不味くはないのかと松田が心配してしまう。
しかし当の本人は全く気にした様子もなく、ダメなら隣の席に座りますけど…と首をかしげて松田の返事を待っているだけ。

杏奈本人が気にしないのならば、松田に断る理由はない。
それに、先日のことで彼女を揶揄うと思わぬ反応が返ってきて面白いことを、松田は知っている。杏奈とならば、ここに来るまえに一緒にいた女とは違い、楽しく有意義な時間を過ごせるだろう。


「いいぜ。」


短く了承の言葉を返した松田に、杏奈はありがとーございますとへらりと微笑んで、持っていたグラスを松田の向かいに置く。
椅子を引いて座ろうとした杏奈に、しかし松田は、ただし…と言葉を続けて。杏奈はニヤリと怪しく微笑む松田に、訝しげな表情を浮かべた。とっても嫌な予感がしたのだ。
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