第4章 アッサム、ときどき、カモミール
注文を受けて立ち去った森の後ろ姿を見送り、松田は改めて店内の様子を眺める。
茶色と赤を基調とした落ち着きのある店内には、アンティーク調の調度品が立ち並び、年代物のレコードが奏でるジャズミュージックが流れている。
多くの客は読書に勤しんでいるようで、ぽつぽつと聞こえる会話は声を抑えており、不思議と店内の落ち着いた雰囲気に馴染んでいた。
英国とどこか懐かしい昭和の雰囲気が混在し、絶妙にマッチした店内は、まだ二回目の来店にもかかわらず、妙に松田の身体に馴染んだ。
「お待たせいたしました。アメリカンコーヒーとホットサンドです。」
しばらくジャズミュージックに耳を傾けながら店内の様子を観察していると、注文した品を手に森がやってくる。
お熱くなっていますので気をつけてお召し上がりくださいと告げ、ごゆっくりどうぞと頭を下げて森はカウンターへと戻っていった。
おしぼりで手を拭いて、松田はアメリカンコーヒーに口をつける。
口に広がるのは程よい苦味やコクと、酸味が強くすっきりとした味わい。
アメリカンコーヒーは薄いというイメージがあったが、このアメリカンコーヒーは深みがあり、そんなことを全く感じさせない。
先日口にしたそれと同じ豆を使用しているとは思えない。
あの時の衝撃を思い出し、松田は思わず笑いそうになり、込み上げてきた笑いをコーヒーで流し込んだ。
続いて松田はホットサンドに手を伸ばす。
出来立てのそれは湯気を纏い、湯気とともに立ち昇るのは、芳ばしいパンとチーズの香り。
断面から覗くのは、とろとろのチーズとカリカリのベーコン。スライスされたトマトの赤とレタスの緑が鮮やかだ。
立ち昇る香りと見た目だけで食欲を唆られ、松田はできたで熱々のそれに悪戦苦闘しながら噛り付いた。
歯ざわりは外はサックリ中はモチモチとしていて、数回咀嚼すると口の中いっぱいに旨味が広がる。
うっま!
蕩けたチーズがカリカリのベーコンに絡み、しかし瑞々しい野菜が脂っこさを感じさせない。そして両面を焼かれたイギリスパンのあっさりとしていながら芳ばしく芳醇な小麦の香りが鼻を抜ける。
このホットサンドは松田が先日くちにしたサンドウィッチとは、別の食パンを使用している。
焼くことで香りが立ち外側はサックリしているのに、水分が逃げず内側はもっちりするイギリスパンを、森がこだわり見つけたのだ。