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アフタヌーンティーはモリエールにて

第4章 アッサム、ときどき、カモミール


「これ以上アンタに付き合う理由が俺には見当たらねえ。礼ならして貰ったし、行くわ。」


お札を出した財布をポケットに押し込むと、女に背を向ける。
それでも女は諦めず、まだ紅茶残ってるしせめて飲み終わるまでは…と笑顔を浮かべた。しかし松田にこの紅茶を飲みきる意味は見出せず、別にいらねえと冷たく告げる。


「っ、待って!行くって、何処に行くの?」


この場に留まる様子のない松田に、ついに女はその腕を掴んだ。
腕を掴まれた瞬間、不快感と煩わしさに思わず顔を歪めた松田だが、女の言葉にフッと口元を緩める。


「アンタよりずっと面白えオンナのとこ。」


松田の脳内に浮かぶのは、頭にタオルを被り丸い瞳で自分を見上げる女の顔。

クツリと唇の端を釣り上げ上機嫌に笑う松田に、女の顔がカッと紅くなる。プライドを傷つけられ女は屈辱に顔を紅く染めるが、そんなこと知ったこっちゃあない。

松田はするりと女の手の中から逃れると、上機嫌でカフェを後にした。

カフェを後にした松田は、街中をぶらぶらしていた時とは違う、確かな意志を持った足取りで駅へと向かう。
電車に乗り揺られることしばらく、大した時間もかからず目的地の最寄駅ーー"米花駅"のホームに電車が滑り込んだ。

電車を降りて階段を登り改札を抜けると、目の前に広がるのはオフィスビルと商業施設の混在する街並み。学校などの最寄駅にもなっている杯戸駅は、多くの人間が利用している。
休日と云えどもそれは変わらず、松田は流れる人波に紛れて歩き出した。

しばらく歩き続け、松田は人通りの多い大通りから逸れる。
奥に進めば広がるのは住宅街。駅や商業施設のある大通りとは違い、人の気配はあっても喧騒とは程遠い。

時折聞こえてくる子供の声や、飼い犬の鳴き声を聞きながら進み続けると、目的の場所が見えてくる。
温かみのある木目が特徴的な木造の建物。周囲には緑が生き生きと光り、落ち着きのある穏やかな雰囲気は、店主の性格を表しているようだ。

そしてその建物の入り口ーー木目の美しい看板に踊る文字に、松田の口元が無意識に緩む。
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