第4章 アッサム、ときどき、カモミール
普段から声をかけられることに慣れている松田は、特に目的も無かったため、声をかけてきた女に着いていき、今に至る。
道を案内したら、今度は男友達へのプレゼントを一緒に見繕って欲しいと店を連れ回され、挙句お礼がしたいとカフェに入ったというわけだ。
「私はどっちかっていうと、そうゆうのは苦手なんだけど。」
ペラペラと聞いてもいないことを喋り続ける女の言葉を、右から左へと聞き流し、松田は注文したアイスティーを口に含む。
流し込んだ液体は王道のアールグレイ。普段はコーヒーを好んで飲む松田だが、何故だか今日は紅茶を飲んでみようと思い頼んだ。
物足りねぇ…。
ベルガモットの華やかな香りが鼻腔に広がるが、氷が溶けて薄まったせいか味も香りも弱い。
口に含んだそれを喉の奥に流し込んだ松田は、心のどこかで落胆する。
その理由はわかっている。
先日、仕事終わりに急な雨に振られ結果的に来店することになった、純喫茶で口にした紅茶が原因だ。
美味しいコーヒーは提供できないと悪怯れることなく客に告げる、可笑しな店員にサービスだと提供された紅茶。
飲食店やペットボトルなどで提供される紅茶とは全く異なる、スモーキーで甘みのあるそれは、松田の紅茶に対する認識を180°変えるほどの衝撃を齎した。
可笑しな店員のオリジナルブレンドであるそれは、松田の好みドンピシャで、あれから数日経った今でも鮮明に覚えている。
そんな経験からコーヒーだけでなく、何となく紅茶も口にするようになったのだが、あれに勝るものに松田は未だに出会えないでいた。
「それでねーー」
「帰るわ。」
飲みかけの紅茶を置いて、松田はガタリと席を立った。
突然席を立った松田に、向かいに腰掛けていた女は、え?と笑顔のまま固まる。何を言われたのか理解できていないのだ。
そんな女は歯牙にも掛けず、松田は財布の中から適当に五千円札を取り出して、テーブルに置く。そこで漸く事態を把握した女が、待ってよ松田を引き留めた。
松田は自分を見上げる女を見下ろし、口を開く。