第3章 意地悪なマシュマロ
「じゃあなーーアン。紅茶、美味かったぜ。」
そんな彼女の様子に気付くことなく、松田ははっきりとそう伝えて杏奈の頭に借りたタオルを乗せ、その上からくしゃりと彼女の頭をひと撫でした。
何を言われたのかも、何をされたのかも理解が追いつかず、頭にタオルを乗せたまま惚ける杏奈。
その姿に松田は満足そうに、どこか勝ち誇ったように笑って、店のドアを潜り店を後にした。
なんであだ名…あぁ常連さんが言ってたからかー。
どうでもいいことを考えていた杏奈だが、ハッとすると急いで外へ飛び出る。
「松田さん傘ーー…。」
松田は傘を持っていない。せっかくモリエールで雨を凌いだのに、濡れて帰っては意味がないと、杏奈は貸し出し用の傘を手に外へ出た。
しかしいつの間にか雨は止んでいて。
「……台風みたいな人だったなぁ。」
雲間から青の覗く空を見上げ、まるで台風のように雨雲を全て巻き取って去っていったかのような松田に、杏奈は思わず呟く。
その例えが、荒っぽく杏奈の言うことに我関せずの態度の彼にぴったりで、杏奈は我ながらなかなかいい例えだと、こっそり笑った。
松田に見られたら、何笑ってやがると睨まれそうだと想像して、それがまた容易に想像できてしまったものだから、杏奈は我慢できず、あははっと声をだして笑ってしまう。
最後の抵抗に頭に乗っていたままのタオルで顔を隠すと、ほんのりと苦くて甘いタバコの匂いがした。
ーー 意地悪なマシュマロ ーー
▽ 蛇足ですので読まなくても大丈夫です ▽
松田さんのモデルになった某刑事はセブンスターを愛煙していたと言われていますが、本作の松田さんが愛煙しているタバコは"LUCKYl STRIKE"をイメージしています。
ラキストは香ばしさとコクが強く,非常に甘くて旨味があるのが特徴で、雑味も苦味も酸味も少ない。
タールは重めで更によく燃えるから、普通に吸うと大変なことになります。全体的にキツめの煙草。
個人的にラキストはイカした兄ちゃんが吸ってるイメージなので、松田さんにピッタリだと思う。むしろラキストしかない!笑
学生時代は赤マル吸ってて、爆処に配属されて願掛けもかねてラキストに変えたとかだと、個人的に美味しいです。