第13章 ふわりとほどけるババロア
あっという間に帰ってきた自身の携帯。
その画面を確認した杏奈は、画面に記された文字に目を瞠った。
" 松田陣平 "
そこには松田の名前と、彼のものと思わしき電話番号とメールアドレスが記されていて。
杏奈はぽかんと呆けた表情で、松田を見上げる。
「萩原が手が離せないときは、俺に連絡してこい。」
念のために登録しとけと、つっけんどんに云う松田。
松田から再び視線を携帯に落とした杏奈は、何も言わずにぼんやりと自分の携帯の画面をみていて。
「別にいらねぇならーー」
「消しません……うれしいです。すっごく。」
ギュッと松田の連絡先が記された自身の携帯を抱きしめる杏奈。
かけがえのない大切なものを手にしたかのように、自分の連絡先の記された携帯を両手で抱きしめ、蒸気した頬でふわりと柔らかくキレイに微笑む杏奈の姿に、松田の心臓がドクンと大きく脈打った。
ドキドキと速度をあげていく心臓の音が、嫌におおきく聞こえる。視線をそらしたいのに、意思に反して目の前の少女から目をそらすことができない。
自分を見降ろしたまま何も反応のない松田に、杏奈がこてんと首をかしげる。
その無防備な姿にさえ、松田の心臓はドクンと大きく反応して。
松田は思わず杏奈の頭を押さえつけるように撫でていた。
「ーーわ!何するんですか〜。」
頭を押さえつけるように頭を撫でられて、下を向いたまま文句をいう杏奈。しかし久しぶりに感じる松田の手の感触は相変わらず心地よくて、やっぱり松田さんに頭撫でられるの好きだなぁと、杏奈は改めて実感し、自然と頬が緩んでしまう。
ふへへと嬉しそうにハニカム彼女の表情と、ふわりと香った甘い匂いに胸騒ぎがして、松田は慌てて手を退けた。
「とっとと寝ろよ、受験生。」
杏奈と視線が合う前に背を向け、片手をあげ歩き出す松田。
離れていってしまった手の感触を残念に思いながらも、杏奈は相変わらずの彼の様子に微笑んだ。
「はーい!松田さんも真っ直ぐ帰るんですよー!」
遠ざかっていく背中に声をかける杏奈。しかし松田は歩みを止めることも、振り返ることもなく、ただ片手をあげただけで。