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アフタヌーンティーはモリエールにて

第13章 ふわりとほどけるババロア


自分が今までやってきたことが、無駄だと言われているようで悔しい。
こんなにも力の差が歴然だということを見せつけられた恐怖。
そんな感情が綯交ぜになって、じわじわと杏奈の視界を滲ませてゆく。

せめて泣きそうな顔だけは見せたくないと、杏奈は顔を伏せた。
しかし胸元に触れた彼女の額や、掴んでいる細い腕、密着した薄い身体から伝わる振動が、松田に杏奈の様子を如実に伝えていて。


「わかったろ。男からすれば、女のお前がどんなに抵抗しようと、関係ねぇんだよ。これに懲りたら、もう知らない男と二人きりで話すな。いいな。」


わかったら頷けと言われて、杏奈はぎゅっと唇を噛みしめて、こくりと小さく頷いた。それを確認した松田は、拘束していた手を解放して離れる。

瞬間、杏奈は背中を壁から離れた勢いのまま、ブンッと拳を松田めがけて突き出した。しかしそれは簡単に受け止められてしまって。すかさず反対の手も突き出すが、こちらも簡単に掴まれてしまう。

それでも足でゲシゲシと攻撃を加えるが、常日頃きたえている松田にとっては、さほど大したダメージではない。
しかし必死に攻撃を加える杏奈の様子に、松田は仕方なく掴んでいた小さな拳を解放する。


「……怖がらせて悪かった。」


松田はごく自然な流れで杏奈の頭に手を置いた。
久しぶりに触れた杏奈の頭は、相変わらず小さくて。不思議と松田の手に馴染む。その心地よさに松田は自然と頭においた手を往復させた。


「……怖かったです。」
「悪かった。」


顔を俯かせたまま一向に顔をあげる様子のない杏奈に、さすがに怖がらせてしまったと反省して、松田は素直に謝罪の言葉を紡ぐ。


「30秒頭撫でてくれないと許さないです、絶対。」
「30秒もかよ…、わかったよ。」


具体的な指示にフッと噴き出してしまったが、松田は杏奈の可愛らしいわがままを受け入れて、手を動かす。

癖のある亜麻色の髪は不思議とからまることなく、ふわりと触り心地がいい。ふわりと嗅ぎ慣れない甘い香りがした気がしたが、それは瑣末なことだ。

ひさしく感じていなかったその感触に酔いしれるように、松田が手に馴染む感触を堪能していると、不意に杏奈が顔をあげる。
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