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アフタヌーンティーはモリエールにて

第13章 ふわりとほどけるババロア


「機会があればぜひ一度足を運んでみては?きっと面白い出会いもありますよ。」


意味深に微笑む男。
その言葉の意味を問おうと杏奈が口をひらいたとき、おいと声がかかり、開きかけの口を閉じて彼女は視線を声のしたほうへと向けた。

そこには、スーツにサングラス姿の男が立っていて。
見覚えのあるその人物に、杏奈は再び口をひらく。


「まーー」
「悪ぃ、待たせたな。行くぞ。」


杏奈がその人物の名前を口にする前に、険しい顔で近づいていたその人物は、杏奈に口を挟ませないように早口にそう捲し立てると、彼女の膝の上に置いてあったスクールバックを掴み、反対の手でグイっと彼女の腕を掴みあげる。

腕を引っ張られ強制的に立ち上がらせられた杏奈が多々良を踏む。しかしそれにもお構いなしで、その人物はちらりと彼女の隣に腰掛けていた男を見下ろした。

日暮れのなかでもはっきりとわかる、サングラスの奥から向けられた鋭い視線に、男は困ったように苦笑を浮かべて両手をあげる。何もしていない、するつもりもないとアピールする男から視線を外した男は、杏奈の腕を掴んだまま公園の出口へと足をむけた。

腕を掴まれた杏奈も必然的に公園の出口へと向かうことになり、ぺこりと小さく男に頭を下げると、もつれながらも何とか足を動かす。


「お嬢さんーー“また”。」


離れていく背中に男ははっきりとそう告げた。
再会を確信しているような男の発言に、首をかしげた杏奈は、腕を引っ張られそのまま強制退場していった。

彼女の背中を見送り、ひとり楽し気に男は微笑んだ。
そこにジャリ…と砂を踏む音がして、男は顔をあげ瞳に捉えた人物に、ふわりと優しく目元をほころばせる。


「こんなところにいたのねーー優作。」


くるんと癖のある亜麻色のロングヘアを揺らした、美しい女性は、怒りをアピールするように腰に手をあてて、男を見下ろす。

だがその姿さえ、男にとっては愛らしくて恐怖など無縁の感情ばかりが浮かんで。
見つかってしまったかとニコニコと反省の欠片もない男の様子に、女性はもう!と頬を膨らませた。
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