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アフタヌーンティーはモリエールにて

第12章 魔法の言葉はXYZ


《……何かいいことでもあったのか?》


風見の僅かな声の違いに気付いたのか、上司がそう問うた。
普通の人ならば見逃してしまうような僅かな変化。風見本人も、何故そう思われたのか理解できず、何故そのように…?と問い返す。

しばらく沈黙していた上司の声が、ゆっくりと言葉を紡いだ。


《いや…声がスッキリしているから》
《出ていく前は疲れきっていただろ》


上司の言葉に、風見はたしかにと改めて自分の状態を振り返る。
ここ最近まとまった休みの時間が取れず、疲弊しきっていた。実際、その所為で体調を崩し戻る時間が遅れてしまった。

しかし今はそれが嘘のように、心身ともにスッキリしている。
蹲るほど体調が悪かったはずなのに、今はすこぶる調子が良いくらいだ。

その理由を考えたとき、真っ先に風見の頭に蘇ったのは、少女の穏やかな笑顔。

少女の気の抜けるような緩りとした口調と、穏やかな空気は平和そのもので。彼女と過ごした僅かな時間は、風見の疲弊した心を癒すには十分な時間だった。

少女の笑顔を思い浮かべる風見の頬が、自然と緩まる。


「はい。もう大丈夫です。いい気分転換ができましたから。」


そこに少女と出会う前の淀んだ雰囲気はない。
風見の穏やかな様子が電話を通して伝わったのか、そうかと一言だけ返した上司の声も、穏やかなものだった。


《じゃあ、この後の仕事も問題ないな》
「えぇ!?」


しかしそれは一瞬のことで。
続いた言葉に思わず風見の口から、驚愕の声が溢れる。

体調を気遣ってくれたと思えば、これだ。
また馬車馬のように働かされるに違いない。
その容姿に相応しい、飛びきり爽やかな笑みを浮かべている上司の顔が思い浮かび、顔を蒼くする風見。

その姿が見えているかのように、冗談だとクスクスと可笑しそうに声を揺らす上司に、勘弁してくださいと風見は額を抑えた。
風見と名前を呼ばれて、彼は顔をあげる。
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