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アフタヌーンティーはモリエールにて

第12章 魔法の言葉はXYZ


スポーツドリンクを奢ってもらう上に、クーポン券まで貰うわけにはともちろん男は渋い顔をする。しかし、お願いしますとじっと見上げられて、その澄んだ海色の瞳に見つめられて断れるわけもない。


「君がそれでいいなら…、受け取らせてもらう。」


クーポン券がしっかりと男の手に渡ったのを見た少女は、ありがとーございます!楽しみにしてますねーと嬉しそうに笑った。
純真無垢で真っ直ぐな、全身から喜色を滲ませる少女に、男は何とも言えないむず痒い心地になり、それを誤魔化すように先ほど直したばかりの眼鏡の位置を直す。


「本当にありがとう。それでは。」
「はい、またー。」


別れを切り出した男に、少女は"また"と次に繋がる言葉をかけた。へらりと曇りのない、再会を信じて疑わない笑みを浮かべて、ひらひらと手を振る少女。


「ーーまた。」


気付けば自然と、男は表情を緩めて、そう再会を約束する言葉をかけていた。

男の言葉をうけて嬉しそうに瞳を眇めて、手を振る少女に手を振り返して、男は彼女に背中をむけ公園を後にした。
駐車場へ行き停めていた車に乗り込んでシートベルトに手をかけたところで、スーツのポケットの中で眠っていた携帯が、存在を示すように震える。

画面を確認し、そこに記された名前を確認した男は直ぐに通話ボタンを押し込んだ。


「ーーお疲れ様です。」
《風見、お前どこにいる》


電話口の相手も確認せず、厳しい声が鼓膜を貫く。
男ーー風見裕也に電話を寄越したのは、少女とした話に出てきた年下の上司だった。

本来ならば既に戻っている時間帯に、風見がいないことに気付いて連絡を寄越したのだろう。
すみません今から戻りますと、風見が余計なことは言わずに応えると、いや…と上司がそれを制した。


《そのまま向かって欲しいところがある》
《すこし気になることがあってな》
《詳しくはメールするから確認してくれ》


一度、戻る予定だったのだが直ぐに次の現場に向かえと言う上司、相変わらずの人使いの荒さだが、彼が気になることがあると言う以上、見過ごすことはできない。早急に現場へ向かった方が得策だ。

調査結果は戻ってきてから纏めて確認すると告げる上司に、わかりましたと了承して、現場に向かうために通話を終えようと、風見は口を開く。しかし風見…と上司の声が続き、彼の言葉を聞くために口を閉じた。
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