第12章 魔法の言葉はXYZ
男の言葉に、そーなんですー?とこてんと首をかしげる少女に、男はまなこを柔らかく眇めると、それと…と少女の膝の上にあるスクールバックを指差す。
「上司もミステリー好きなんだ。」
男の指差すスクールバックの口は開いていて、隙間から少女が読んでいたミステリー小説の表紙が覗いている。男がうずくまる直前まで読んでいたものだ。
学校帰りに家に帰らずこんな公園でわざわざ本を開くくらい、少女はミステリー小説が好きなようだ。彼女の観察眼もミステリー好きが高じたものなのかもしれないと、男は思った。
「ほー。それはなかなか興味深い方ですねー。」
顎に手を添えて何故かキリリとキメ顔をする少女に、男は笑う。
「そうなんだ。彼は人を惹きつける人で、尊敬できる上司だ。」
最初に年下の彼を上司だと紹介されたときは驚いた。何より、こんなに若い男が上司で大丈夫かと不安になると同時に、納得できないとも思っていたくらいで。
しかし彼の下につき、側でその活躍や仕事ぶりを見れば見るほど、その気持ちは薄まり、やがて尊敬の念すら抱くようになった。
「今では彼の元で働けることを、幸せだと、恵まれていると思う。休みは少なくなったがね。」
苦笑する男だが、その表情は晴れやかで、年下の上司のことを慕っていることがありありと見てとれた。
少女はそんな男性に、その気持ちすこし分かるかもですーと微笑んだ。
「私もバイト先の店長がすっごい人で、この人の下で働けるなんて幸せだーって思います!」
へらりと微笑む少女の瞳はキラキラと輝き、その店長のことを心の底から尊敬し慕っていることが、男にもよくわかった。そんな彼女に親近感がわいて、男はそれからしばらく少女と言葉を交わした。
自分の話に興味深そうに耳を傾け、相槌や言葉を返す少女に、自然と肩の力も抜ける。ここ最近は穏やかな時間などほとんどなかった男は、気付けば体調の悪さもすっかりなくなっていて。
「そろそろ失礼する。ありがとう。お陰で体調も回復したし、いい気分転換になった。」
「いえいえー。私もお話きけて楽しかったです!」
そろそろ戻らなくては上司から大目玉を喰らうと、腰をあげた男に伴って少女もベンチから立ち上がる。