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アフタヌーンティーはモリエールにて

第12章 魔法の言葉はXYZ


夏の茹だるような暑さも、台風や気候の変動でいまいち調子の整わない時期も過ぎて、すっかり過ごしやすくなってきた十月。
秋も深まり、スポーツの秋と銘打たれるだけあり、人々が活動的になる時期。

茜や橙に鮮やかに彩られた公園には、元気にはしゃぎ回る子供たちの姿や、犬の散歩やランニングなどして身体を動かす大人たちの姿が溢れている。

その光景を、公園脇のベンチに腰掛けぼんやりと眺めている男が一人。
皺ひとつないピシッとしたスーツを見にまとい、葡萄色のネクタイを上までキッチリと締めた男は、しかし眼鏡をかけた顔色は青白く心なしかやつれ、萎びれて見える。


「お待たせしてすみませーん。」


ぼんやりと正気の薄い男に、駆け寄るひとりの少女。
首元に赤いネクタイを締めた深い緑色のシャツに、茶色地のチェック柄のベストとスカート。足元は黒のストッキングとローファーという学生服姿の少女を、男は緩慢な動きで見上げた。


「はい。これ、どーぞー。」


少女は言いながら、自分を見上げる男にペットボトルのスポーツ飲料水を差し出した。ペットボトルの肌に汗をかいており、よく冷えているのがわかる。

ありがとう…と、緩慢な動きでそれを受け取った男は、パキャッとキャップを開けて、早速ペットボトルに口をつけた。
ゴクゴクと男の喉が上下するのに合わせて、ペットボトルの中身が減っていく。その様子をみて、密かにホッと安堵の息を吐いて、少女は男の隣ーー茶色の革製のスクールバッグが置かれている場所ーーに腰を下ろした。

しばらくしてペットボトルから口を離した男は、ふぅ……と深く息を吐き出す。


「……すまない。助かった。」


男はペットボトルのキャップを閉めると、となりに腰かける少女に力なく頭を下げた。

仕事で外を回っていた男だが、ここ最近は纏まった休みの時間がなかなか取れず、外回りから帰る途中で体調を崩してしまったのだ。
思わずうずくまり、体調の回復を待っていたところに声をかけたのが、少女である。

男の言葉に、いえいえーとへらりと緩く微笑む少女。
元気にはしゃぎ回る子供たちの声の中で、朗らかに微笑む少女の姿は平和そのもので。男はそのことに心まで救われたような気がした。

思わず柔らかくなった男の顔をみて、少女は付かぬ事をお伺いしますが…と口を開く。
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