第11章 差し出されたラムコーク
萩原は何度も松田の家に泊まりに来たことがあるため、寝間着や布団の準備の心配はない。特にやることもなく、ひとり取り残された松田の頭は、自然と先ほどの萩原の言葉をリフレインする。
萩原の言っていることは、正しいのだろう。
未成年の杏奈と交際することを、世間が許さないと言うのであれば、彼女の成長を待つという選択も、行動しなければ何も変わらないということも。
「……ッチ!だから何だってんだよ……!」
萩原の言っていることは、間違ってはいない。
だからこそ、松田は何故だか責められているような気がして、無性に苛立った。
萩原は別に松田のことを責めるようなことは、一切言っていないと云うのに。
『 お前が思ってるより、杏奈ちゃんは子供じゃないよ 』
『 関係ないよ、年齢なんて 』
『 想うだけなら自由だろ 』
『 これから先、どうなるかなんて、誰にもわからないだろ 』
次から次へと浮かんでは消えていく萩原の言葉。
「わかってんだよ、んなこたぁ。」
杏奈がもう少女と呼ぶにはふさわしくないことも。
恋愛感情に年齢なんて些末なことでしかないことも。
誰かを想うことを、誰にも咎めることなど出来ないことも。
これから先、関係が変わることだって有り得るということも。
萩原にわざわざ言われなくとも、松田とて理解していた。
だからって、何だって云うんだよ。
それが分かっていたところで、何だというのだ。
萩原が杏奈のことを想うことは自由で、ましてや杏奈の恋人でもない松田には関係のないこと。彼はもちろん、杏奈がいいヤツだということは分かっているのだから、止める理由もない。
その筈なのに。
胸のあたりがムカムカして仕方がない。
発散することもできない、理解できないムカつきに、松田の中の苛立ちは増していく一方だ。
「……俺には関係ない。」
理由のわからないムカつきに言い聞かせるように、松田はつぶやいた。
それでも腹に渦巻くムカムカとした不快感も、嫌に焼きついた萩原の言葉や、真っ直ぐな視線が消えることもなく、松田は無意識にグッと手を握りしめる。
手の中の缶ビールが、ベコリと悲鳴をあげた。
—— 差し出されたラムコーク ——