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アフタヌーンティーはモリエールにて

第11章 差し出されたラムコーク


「杏奈ちゃん、寂しがってたぞ。お前が最近、頭撫でてくれないって。」


寂しかったと萩原の前では決して口にしなかった杏奈。けれども、一瞬だけ寂しそうに表情を曇らせた彼女の顔を、萩原は見ていた。


「……そうかよ。」


特に気にした様子もなく、淡々と言葉を紡ぐ松田。
その様子をちらりと見て、萩原は視線をテレビに戻す。映画はクライマックスに向かって盛り上がっている。それに興味が引かれるわけでもなく、萩原は視線だけテレビに向けたまま、松田にむかって言葉を吐く。


「なんで、いきなり頭撫でなくなった?」


攻めるような色はなく、淡々と、疑問をそのまま口にしたような萩原の声が、テレビの喧騒にまぎれて、静かに松田の耳にとどく。
松田は缶ビールを一口煽ると、ゆっくりと口を開いた。


「別に。つか、意識すらしてなかったわ。」


ははっと小さく笑う松田の言葉に、萩原は嘘だと直感的に思った。ちらりと視線を向けると、松田は真っ直ぐにテレビの画面をみつめていて。けれど内容に集中している様子はない。

萩原はゆっくりと手に持っていた缶ビールをテーブルに置くと、真っ直ぐに松田を見上げた。


「松田、お前——杏奈ちゃんのこと好きなんじゃないの?」


杏奈の頭に気軽に触れられなくなったのは、彼女のことを一人の女性として意識してしまったからではないのか。萩原は真っ直ぐに松田をみて問う。

人としてとかじゃなくて、異性としてって意味だからなと、松田の逃げ口をふさぐように言葉をつづけた萩原に、松田は一瞬だけムッとしたように眉を寄せた。

しかし、じっと自分を真っ直ぐにみてくる萩原に、誤魔化しは不可能だと、諦めてため息を一つこぼす。


「お前がなに勘違いしてんのか知らねぇけど…、そんなんじゃねぇよ。つか、アイツまだガキだろ。」


杏奈はまだ高校生だ。大学生にすらなっていない、成人に満たない子供。
確かにときどきそれを感じさせない言動はするが、それでもやっぱりまだまだ子供だ。そんな彼女を異性として意識するわけがない。

そこまで女に困ってねぇよと鼻で笑う松田だが、視線は一切萩原に向けようとしない。視線の合わない相手から視線を落として、萩原はたしかに…と静かに声を発する。
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