第10章 チャイの香りと共に飲み込んで
それから二人はカフェを後にして、デートを再開させた。
ウィンドウショッピングを楽しみ、気になっていた映画をみて、ディナーに舌鼓をうちながら映画の感想を言い合って。
二度目のデートの時間も、あっという間に過ぎ去っていった。
「今日はありがとうございましたぁ。すっごい楽しかったです~。」
古書店の立ち並ぶ通りで手に入れた本を抱え、ほくほくと満足感と多幸感に満ち満ちた顔をする杏奈。それは良かったと萩原は可笑しそうに笑った。
それじゃあ…と挨拶をして車を降りようとした杏奈を、ちょっと待ってと、萩原が呼び止める。
ドアに手をかけたまま振り返った杏奈に、萩原はにこりと微笑んだ。
「ーー誕生日おめでとう。杏奈ちゃん。」
言いながら差し出されたのは、小さな紙袋。
有名なコスメブランドのロゴの入った、可愛らしい袋からは、ふんわりと甘い香りがする。
驚いて差し出された袋と、萩原を交互にみる杏奈に、彼は楽しそうにクスクスと笑った。
「今月、誕生日だったでしょ?すこし遅れちゃったけど、俺から杏奈ちゃんへ誕生日プレゼント。」
萩原の言葉に杏奈は、先日、18歳の誕生日を迎えたことを思い出す。友人や家族からはもちろん、店長である森からもお祝いをしてもらったのだ。
しかしまさか、萩原がそれを把握していて、プレゼントまで用意しているとは思わず、杏奈は、いいんですか?と確認してしまう。
そんな彼女の様子に、むしろ受け取ってもらえない方が困るかなと、萩原は笑った。
「じゃあ…お言葉に甘えてぇ……。」
ゆっくりと手を伸ばしてプレゼントを受け取る。
開けてみても良いですか?と杏奈が確認すると、是非と笑顔が返ってきた。杏奈は早速紙袋の口を開いて、包装紙を破らないように、慎重にその中身を暴く。
「これって……。」
カサリ…と包まれていたベールを脱いだそれに、杏奈は小さく声をもらした。
萩原からのプレゼントは、入浴剤とヘアオイル、ボディークリーム、ハンドクリームなどが詰め込まれたケアセットだった。
可愛らしいデザインボトルに入った、淡い色合いの同じく可愛らしい見た目のそれに、杏奈は年相応の女の子らしくキラキラと瞳を輝かせる。