第7章 さよならは突然に
目の前でベットメイキングをしている男ーーー
早乙女 隼人(さおとめ はやと)を知っているのだ。
早乙女がこちらを向き直る。
「おや、御迎えに上がったまでですよ。
貴方が危険な奴等に目を付けられたので、事が収まるまでそちらに連れ戻して欲しい、と。
ねぇ、お嬢様?」
『その呼び方はやめてと言っているでしょう』
「これは失礼致しました、愛香様」
意地悪く笑う早乙女。
早乙女は昔から上っ面が良いので、誰もこの腹黒い所を知らないのだ、私以外は。
だからこそ尚更腹が立って仕方がない。
『それで?詳しく説明しなさい』
「おや、聡明な愛香様なら既に大体は把握しておられるでしょうが…そうですね、では分かりやすくご説明を」
そう言って彼は紅茶を用意しながら説明をし出した。
出てきたベルガモットティーを飲み、話を整理する。
私がここにいる経緯を話す前に、私の家について先に説明しよう。
私の父は某有名IT企業の社長なのだ。
母は有名な名家のお嬢様でお見合い結婚をしたとか。
つまり私個人の家柄としては申し分ない程の裕福な家庭に生まれた。
結構自由な親であった為、昔から好きな事をさせてもらっていた。
だが、1つだけ不自由だったのが、先程紹介した早乙女だ。
彼は所謂幼馴染と言う奴だった。
私が7つの時から一緒なので、既に腐れ縁みたいなものだ。
父の専用執事の息子だったのだ。
年も近いという事もあり、一緒の時間を過ごす事が多かったのだが…まさか自分の執事にされるとは。
猛反対をしたが、ただの照れ隠しとして却下された。
何処をどうとって照れ隠しと取られたのか…どうやら裏で早乙女が動いていたらしいが今となっては知る由も無い。
早乙女家は代々執事を生業としている家だ。
有名起業家や名家などに仕えてきたらしいが、早乙女家は早乙女家で名家なので執事などしなくても十分贅沢な生活を出来るようだ。
だが、誰かに仕えるのが性に合う、という理由で執事を続けているらしい。