第12章 欲張りな願い
「ですよねー!!これ絶対柊羽お姉様に似合うと思って!あ、安室さんのコーチ代ってことで差し上げます!」
「え?いいよ園子ちゃん透さんにはもっとちゃんと別の…」
「いえ、それで問題ありませんよ。これで向こうでもテニスできますね!」
「え…」
「いいなぁーテニスデート!私も真さんにガッカリされないように頑張らないと!!ってことで今日は特訓よろしくお願いします!」
「はい、ではサーブからいきましょうか」
柊羽の抗議の声は届かず合意がなされ、安室と園子はコートへ向かう。
と思ったら、「あ、」と思い出したように安室が振り返った。
「でもその格好、群衆に見られるのはあまり…これ、羽織っててください」
そう言って、自分の荷物から大判のタオルを取り出し柊羽の肩にかけた。
その行為はなんだか嫉妬心のように思えてならなくて、柊羽は人知れず嬉しさを噛み締め安室を見つめていた。
(それにさっきの…帰っても会ってくれる、って事?)
「コナンくん、ボール危ないから下がってて」
「いや、危ないのはボールじゃなくて…」
「危ない!!」
「へ?」
ゴッ!という鈍い音と共に、どこからが飛んできたラケットがコナンの頭に直撃した。
「し…コナンくん!」
コナンはそのまま倒れ、意識を失ってしまった。
そこからの安室の応急処置は素早く、適切だった。
組織のメンバーだとこういうことにも精通していなければならないのだろうか。
子供が倒れたら誰だって助けようとするとは思うが、新一達から聞いた組織のイメージとはやはり安室はかけ離れている気がしてならない柊羽であった。
柊羽たちは、ぶつかったラケットの持ち主である男の連れの桃園という女性の別荘に案内されていた。
コナンも目を覚まし医者に診てもらうと、軽い脳震盪という診断でとりあえずは大丈夫そうだ。
柊羽は皆に聞こえないよう小声で話しかけた。
「よかったね。でも新一があんなヘマするなんて珍しい。よっぽど透さんのこと気になってたんでしょ?」
「うるせー。俺はまだ信じてねぇから常に警戒してんだよ。柊羽姉も油断すんなよ?」
「応急処置してくれたの、透さんだけどねー」
何が言いたい、と訴える視線を無視して柊羽はその場を離れた。