第12章 欲張りな願い
俯く視線の先に現れたスニーカーが、安室との距離を知らしめた。
柊羽は意を決して、顔を上げる。
そこには困ったように笑う、安室がいた。
「その顔が見たくて、内緒で来ちゃいましたけど…やっぱり柊羽には笑っていて欲しいかな。」
スっと右手が伸びてきて、優しく頬を撫でられた。
園子や蘭が騒いでいるようだったが、柊羽にはそれがとても遠くに聞こえて。
一瞬で、二人の世界になったような感覚に陥りそうになったが、柊羽は理性でぐっと堪えた。
「良かった。風邪治ったんですね。心配…しましたよ」
「!…すみませんでした。」
「梓さんも心配してました。」
「でしょうね…ちゃんと謝ります。」
「戻ったら容赦しないって言ってましたよ」
「甘んじて受け入れましょう」
柊羽が普通に接しようとした空気を安室も感じ、合わせてくれた。
こうして何も言わなくても意思疎通できる、意思を汲み取ってくれる安室が、やっぱり好きだなと柊羽は改めて噛み締めていた。
「ねえ、僕達がいること忘れてない?」
不機嫌そうに、コナンが問う。
怪訝そうな表情を見ると、安室への疑いの目を隠すつもりはないらしい。
「こらガキンチョ!邪魔すんじゃないわよ!」
「テニスするんじゃなかったの?」
「そういえば透さん、テニスやってたんですね」
「ええまぁ、中学以来ですが…」
「ジュニアの大会で優勝したってポアロの店長から聞いてな!」
「肩を痛めてからは離れていましたが…教えるには支障ありませんから」
それにしては、ブランクがあるようには見えなかったが。
それも隠し事と関係あるのだろうかと、つい思考がそちらへ持っていかれてしまう。
早いとこ白黒つけないと精神衛生上宜しくないなと柊羽は思っていた。
考え事をしていたら、ふと視線を感じた。
その元をたどると安室が顎に手をあててこちらをジッと見ていて。
「えっと…何でしょう?」
「それ、似合いますね」
「え?あ!!!」
思いがけない出来事のせいで忘れかけていた今の自分の格好。
改めて意識させられて顔に熱が集中するのが分かった。