第11章 迫られる選択
「えっとー…私今日はなんで呼ばれたのかな?」
別にアイスブレイクなんて必要ないだろう、何なら要件だけ話してさっさとこの場を立ち去りたいと、柊羽は自ら直球で切り込んだ。
「心当たりは?」
質問に質問で返す沖矢に少しムッとなりそうだったが、なんとかポーカーフェイスを保てていた、と思う。
何者か分からないこの人に感情的になるのはよくないと本能で思っていたからだ。
「じゃあ質問を変えます。沖矢さん、あなたは何者ですか?」
「私はしがない大学院生ですが…」
「突然人の事気絶させる大学院生なんています?」
「いましたね」
「ただの大学院生に、哀ちゃんがあんなに怯える理由が分かりません」
「少しきつく叱りすぎましたかね…?」
「はあ。まともに話す気がないならもう帰ります。」
何を言ってもこちらを馬鹿にしているような返答しか得られないことにどんどん柊羽の怒りのボルテージは上がっていき、これ以上は時間の無駄だと思い立ち上がった。
「私が組織の人間…と言えば満足ですか?」
少しトーンの下がった声に、ぞくりと身体中が粟立つのを感じた。
「それが、本当なら、満足です」
「ホォー…もしそれが真実で、貴女がそれを知ってしまったとなれば…生かしておくわけにはいかないんですがね」
いつも笑っているかのような優しい目がスっと開かれ、妖しく光る。
まるで、本当にそうなのではないかという程、不気味だった。
昨日電車でじわりじわりと詰め寄られた時のように足が動かなかった。
「昴さん、その辺にしてあげて」
漸く、新一が口を開いた。
「すみません、あの少女といい、危機感のない女性を見るとつい…」
「柊羽姉ちゃん、大丈夫。昴さんは本当に敵じゃないよ。」
「へ?そ、そう…なの?」
新一が言うなら、きっとそうなのだろう。
なんだか一気に安心して、ヘタリと再びソファに腰掛けた。
「そうならそうと言ってくれれば…」
「すみません、貴女が危ないことをしないように、少し意地悪をしてしまいました。」
「危ないこと?」
「"組織"のことは、軽々しく口にしない方がいいですよ。死にたくないなら、ね。」