第10章 ミステリートレイン
そしてこの奇妙な列車の旅もいよいよ佳境を迎えようとしていた。
ある一室では、有希子とベルモットが対峙。
互いに譲らない巧みな挑発合戦が繰り広げられていた。
二人とも女優だ。一切の感情をしまい込み、腹の探り合いをしている。
「今は私たち新ちゃんチームが一歩…いや二歩リードってところかしら?」
「へぇ…?その心は?」
「世良っていう女の子は回収させてもらったわ」
「仕事が早いじゃない。でも変ね…ボウヤは今推理ショー中…他に助っ人でもいるのかしら?」
「さぁ…どうかな?こっちにはスペシャルゲストがいるかもしれないわよ」
本当のところ、有希子は沖矢が柊羽をどんな風に使うかは分からなかったが、嘘は言っていない。
それを抜きにしてもこちらには組織にとっては死人の赤井秀一と、月下の奇術師が控えている。
有希子は大舟に乗ったつもりで、このライバルとの攻防戦を楽しんでいた。
しばらくそんなやり取りを続けた後、頃合いを見て有希子が仕掛ける。
有希子は、ベルモットが新一に手を出さなかったり、新一の幼児化を組織に話していない理由をつらつらと述べた。そして板倉卓の名を出したところで、ベルモットが反応を示したことを見逃さなかった。
「彼に頼んだソフト、幼児化を隠す訳と何か関係があるのかしら?」
「有希子、そこまでよ…」
ジャッと、遂に痺れを切らしたベルモットが脅しの道具に手をかけた。
だがこれも、予想済み。
まあ自分が考えた訳ではなく、全ては新一と沖矢のシナリオだが。
ここからは、わざと焦りを見せて相手を優位に立たせてると思わせるのが仕事だ。
ベルモットはこちらの用意した台本を読んでいたかのように、予定通りこちらの作戦を見抜いたと推理ショーを始めてくれた。
「この部屋にシェリーが匿われていないってことは、どうやらまだ保護できていないようね?」
「で、でもシャロンもあの子を見つけていないならまだ五分五分じゃない」
「NO problem.彼女を炙り出す準備なら…もう整っているわ」
さあ、クライマックスの幕開けといこうか。
ベルモットは車内に仕掛けた発煙装置のスイッチを押した。