第10章 ミステリートレイン
「それじゃ、あとは作戦通りに。健闘を祈るわ。シャロンの方は私に任せてね!」
この緊張感にそぐわない明るい声色で有希子が言う。
だがすぐに切り替えて、真剣な面持ちで続けた。
「柊羽ちゃんのこと、絶対に傷つけないって約束してね。とっても…儚い子なの。」
流石は女優、といったところか。
もちろん本心だろうが、沖矢は相変わらず恐ろしい一家だな、と思っていた。
「分かってますよ。彼にも、大切なものを作る覚悟と恐ろしさを知ってもらわないとと思っただけです。悪いようにはしません。」
「うふっ!まあ貴方のことだから心配はしてないけど!」
再びいつも通りの可愛らしい雰囲気を身にまとい、有希子は部屋を後にした。
「さて、俺も危なっかしい妹を止めにいかないとな。」
そう呟く沖矢の口元には笑みが零れとても穏やかな顔をしていたが、柊羽はこの男が敵ではないということを、まだ知らない。
沖矢はその後目的の___ベルモットの部屋へ侵入し、そこで眠る世良を抱え柊羽と同じ部屋へ運ぶ。
自分のことを探している実の妹。
こんなに近くにいるけれど、存在を明かすことの出来ないもどかしさ。
それが"組織と関わる"ということ。
何の罪もない一般人であろうと、組織を脅かす人間との繋がりはまさに命取り。
この妹だって、もし自分が生きていると知っていたら、先程接触が会った時に身柄を拘束され、自分の居場所を吐くまで何をされていたか分からない。
この、柊羽という少女もそうだ。
『貴方まさか、例の組織の…』
あれが、自分ではなくジンやベルモットに向けられていたら…
最悪の事態だってないとは言い切れない。
彼女は組織について何も知らないらしいが、無知ゆえに誤った判断が生まれる。知らないのだから、組織の恐ろしさを加味できるわけがないのだ。
だからこれは、警告だ。
自分と昔の恋人のように間違った道を歩まぬように。
それを理解した上で、どうするかを決めるのは本人達に任せよう。
「俺も随分と過保護になったものだな。歳か?」
スヤスヤと寝息を立てる2人の人物を見つめながら、沖矢もとい赤井秀一は独りごちた。