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透明な約束【名探偵コナン/安室】

第10章 ミステリートレイン



「そんなに思い詰めた顔をして…どうしたんです?」



安室は皆から少し距離を取り、抱き寄せるような形でそう言った。
好きだと自覚したばかりの柊羽にとってそれは心臓に悪すぎた。
けれどこの奇妙な列車の雰囲気と、いつもと異なる雰囲気を纏う安室が羞恥心に制御をかけてくれた。



「透さん、何を、してるんですか?」

「貴女との貴重な逢瀬の時間を楽しみたくて、つい」

「そういうことじゃ、なくて!」

「しっ。今は僕と話すことだけに集中してください。」



これは、口を割るつもりはないらしい。
どうしたらいいものか。



「危ないことをする人は、…っきらい、です」



嘘でも"きらい"と口にすることが、こんなに苦しいだなんて。



「言ったはずです。僕は死ぬつもりはない、と。」



突然、真っ直ぐな瞳でそう告げられ、ついドキッとしてしまう。
貼り付けた笑顔でこれ以上踏み込むなと距離を取られたと思えば、この間の会話をきちんと覚えてくれていて。
そんなささやかな事が、嬉しくて。
早速、自分の発言を後悔した。



「…きらいだなんて言って、ごめんなさい。でも、本当に、危ないことはしないで。」

「柊羽を悲しませるようなことはしません。自分勝手なのは重々承知ですが…信じていてください。」



危ないことをするなというお願いは、聞いてもらえなかったようだ。
何をするのかは分からない。
けれど、そう言う彼の表情からは、先程の貼り付けた笑みはもう消えていた。



「柊羽と話せてよかった。少し心が軽くなった気がします。」

「それは良かったです。そろそろ戻らないと、皆が怪しむかも…」

「ですね。…あ、そうだ」



距離を取った体が、また引き寄せられた。
今度は先ほどよりもだいぶ近く、耳元に彼の息を感じる距離。



「さっきの男、なぜ追いかけたんです?」

「えっ…」

「知り合い?」



少し、トーンの下がった声。
こちらの答えを聞く前に畳み掛けるように聞いてくる様は尋問のようだった。



「いいえ。なんだか異様な雰囲気だったから思わず…」

「そうでしたか。柊羽さんこそ、無茶はしないでくださいね。では行きましょうか」



そう言う彼は、もういつも通りだった。
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