第10章 ミステリートレイン
殺人事件が起きた。
心なしかコナンもいつもよりピリついているように見えて、柊羽の不安は募るばかりだった。
この予想外の事件に、列車も緊急停車。
否応なしにこの不気味な車内に閉じ込められてしまった…と絶望にも似た心境で呆然としていると、服の裾をキュッと握る小さな手に意識を呼び戻された。
「哀、ちゃん?」
上からでは見えづらいが、怯えているのは一目瞭然だった。
何が彼女をそうさせているのか気になり、周りを観察してみるといかにも怪しい人影。
(あんな人、いたっけ…?)
怖くなかった訳では無い。
でも、自然と足がそちらに向かっていた。
まるで「行くな」というように哀の服を握る力が強まったのを感じながら、一歩また一歩と進む。
遂に哀の手が離れたかと思うと、今度は別の手にガシッと腕を掴まれた。
気を張っていたせいもあり、思わずその手を振り払い相手と対峙すると、そこには____
「透、さん…」
「すみません。驚かせようとは思っていましたが…怖がらせちゃいました?」
困ったような笑みを浮かべるその人に、色んな感情が溢れてくる。
今までどこにいたのか。
顔が見れてホッとした。
なんで返事をくれなかったのか。
でも、何より___
「無事で、よかった」
「…っ!」
安室は予想だにしなかった言葉に息を飲んだ。
二人の間に流れた微妙な空気は、第三者の声で断ち切られる。
「あっ!もしかしてそこのイケメン!!」
「安室さん!よかった、乗れてたんですね!」
「ええ、少しトラブルに巻き込まれまして…それより、車内で事故があったようですが…」
「殺人事件があって。今世良さんとコナンくんが現場に…」
「そうですか…なら毛利先生にお任せした方がよさそうかな?」
(え…)
何気ないやり取りだった。
現に、誰も怪しんでいない。
でも柊羽は、柊羽だからこそなのか、引っ掛かった。
(行かないの…?弟子、なのに。それとも、行けない理由でも…?)
よからぬ思考にぐるぐると支配されていると、またグイッと腕を引かれた。