第10章 ミステリートレイン
柊羽は早速その日のうちに電話をした。
『二日連続で掛けてくるなんて、珍しいですね。』
聞こえてきたのはいつも通りの声で、何故かホッとした。
「ちょっと用事が…今日は、お仕事だったんですか?」
『まぁそれもありますが……友人に、会いに。』
「透さんがお友達の話って、なんだかそれこそ珍しいですね!どんな人か気になります。」
『まるで僕に友達がいないかのような口ぶりですね』
「え!いえっ!そういう訳では…」
『ふふっ、冗談です。きっと柊羽さんとも気が合うと思いますよ』
「ホントですか?会ってみたいなぁ」
『…それで、用事って?』
よかった。いつも通りに会話出来ている。
柊羽はなるべく意識をしないよう、平静を装っていた。
『謎解き列車、ですか』
「はい。実はオーナーの娘さんと知り合いで…良かったらその…彼と一緒にどうかって。」
電話の相手を改めて"彼"と称することが未だに慣れなくて、しどろもどろになってしまう。
けれど当の本人は少しも気にする様子はなく。
『確かに楽しそうですね、空けておきます』
なんだか自分一人だけこの恋愛ごっこに翻弄されているようで、情けない気分になった。
『…柊羽?』
ほら、またそうやって、絶妙なタイミングで甘やかす。
悔しいけれど、それでも単純な思考回路は浮上する。
(あぁ、なんだ___)
(私きっと、透さんのこと、好き、なんだなあ)
気付いてしまった。
男性であれば誰彼問わず怖かったあの頃からすれば大きな前進のはずなのに、手放しでは喜べないと思う自分もいて。
だって、今の関係は、どちらかが本気になってしまったら終わりでしょう?
彼は優しいから、きっと『自分のことを好きならこの関係は辛いだけだ』と身を引くに違いない。
もう少し、この温もりに、甘えていたい。
そんな浅はかな考えにどうか気づかないで欲しい。
「何でもないです。お出かけするの初めてですね!楽しみにしてます。」
『そんな可愛らしいことを言って貰えるとは…それじゃあ益々行かない訳にはいかないな』
本当に、勘違いしてしまいそうだと柊羽は思った。