第9章 リンクする思い出
その日、柊羽はちゃっかり仕事中でも話しやすいカウンターに「御予約済」の札を置き、言われた通りお店で一番いい酒を冷やして待っていた。
けれど、2人は現れなかった。
胸騒ぎがして、バイトが終わってすぐに電話をかけてみたが、1人は不通で、1人は出ない。
それから2~3日はそんな状況が続いて、当時の彼氏には他の男のことで必死になりすぎと怒られて喧嘩になった。
忘れもしない、土曜日。
2人のことが気になって遊びに行く気にもなれず、家のベッドでゴロゴロしていると携帯が震えた。
ガバッと飛び起きそれを手に取ると、待ち望んだ名前が表示されていた。
ずっと待っていたけれど。
いざ、となると、震えて通話ボタンがなかなか押せない。
聞きたいけど、聞きたくない。
信じたいと思いながらも、本当は、心のどこかで最悪の事態を予想していた。
あの日から、ニュースもわざと見なかった。
認めたく、なかった。
意を決して、通話ボタンを押す。
『おせぇよ。寝てたのか?』
それは、ぶっきらぼうな、けれど優しい声で。
思い描いていた一番最悪のケースは免れた。
彼___松田陣平は、生きていた。
『遅いは、こっちのセリフっ…ですけど!』
精一杯の強がりも、とめどなく流れる涙で台無しだ。
『………わりぃ』
聞きたいことが、ある。
きっと彼も、言いたいことがあるはずで。
お互いに言葉にすることが怖くて、しばらく沈黙が続いた。
『………お前、今から出られるか?』
まさかの誘いに、少し間の抜けた声が出た。
『用事は、ないですけど。出かける気分じゃ…』
『車出すから、駅前に来てくれ。』
『え…ちょっと、』
『あぁ、礼服でな。』
頭を鈍器で殴られたような衝撃だった。
それでもなんとか耐えられたのは、どこかでやっぱりなと思っている自分がいたことと、彼らしい、不器用な伝え方のせい…いや、おかげだったのかもしれない。
『………分かり、ました。』
なんで、と聞くのは無粋な気がして、物分りのいいふりをした。
それから礼服を引っ張り出し、薄く化粧をして駅前に向かうとすぐに迎えがやってきた。