第9章 リンクする思い出
車内は無言だった。
普段はあまり好きではないタバコの匂いも、今はその人が生きている証のように思えて心地がよかった。
柊羽は、それを感じながら、これから突きつけられる現実を思い窓の外を眺めていた。
『着いたぞ』
葬儀場、だ。そんなことは礼服を指定された時点で分かっていたけれど。
ゆっくりと顔を上げて、入口を見た。
そこには、葬儀の案内が書かれていて。
どうか、知らない名前でありますように。
自分がこの場に連れてこられた時点でそんなことがあるはずはないのに、そんなバカみたいなことを考えていた。
『………萩原、さん』
勿論そんなバカな願いは叶うはずもなく。
『ほんと、フザけた野郎だぜ。』
サングラスの奥の表情は、見えなかったけれど
『吹っ飛ぶ直前、最期に言ってたんだ。お前の店に行くの、楽しみだって。』
静かにそう話す彼の言葉は
『守れねぇ約束なんてすんなよなぁ。ったく…』
私の心を、痛いほど締め付けた。
「まぁ、そんな彼も同じような末路をたどるんですけどね!」
突然、暗くなった雰囲気を打ち消すようにヘラッとする柊羽に、安室ははっとした。
思わず聞き入ってしまっていた、旧知の仲の人物の最期。
柊羽には申し訳ないが、今まで詳細に知ることが出来なかったそれを聞けたこと自体は嬉しいと感じてしまっている自分がいた。
「柊羽」
安室は、時々突然呼び捨てで呼ぶ。
気まぐれなのか、基準がよく分からないけれど、不意打ちは心臓に悪いからやめて欲しいなんて思ったりする。
「話してくれて、ありがとうございます。」
「こちらこそ、聞いてくれてありがとうございます。」
「柊羽の気持ち、よく分かりました。でも、もう1人で泣かないでください。」
「え?」
「抱きしめたくなるだろ」
「はっ!?」
なんだか、いつもより少しトーンの低い、なんというか色気のある声だ。
「嫌?」
「へ?や、あの…?透さん、ですよね?」
「ははっ、何言ってるんです?当たり前じゃないですか」
やっぱり読めない。
でも、また少し本当の彼に近づけたような気がした。