第9章 リンクする思い出
「僕は探偵ですよ。昼間のあの言葉、少し引っかかっていたんです。」
『…この、人の、恋人とか家族って…どんな気持ちで待ってるのかなぁ?』
それがなくても、柊羽の大事だった人が刑事だったということは知っていたが。なんとなくそれはまだ言うべき時ではない気がした。
「…彼は、三年前、沢山の人を守るために一人犠牲になりました。」
柊羽はずっと心に閉まったままだったあの日のことを、ぽつりぽつりと話し始める。
自分が楽になるためか、安室には話しておきたいと思ったからか、自分でもよく分からなかったけれど。
「本当に、ああするしかなかったのか、今でも疑問に思います。」
その気持ちの正体を、安室はよく知っていた。
守れたかもしれない命を、失った後悔。
生かす選択を捨てた、その瞬間を止められたはずの人間への怒り。
「守られた大勢の人たちそれぞれに大切な人がいたように、私も彼が大切だった。」
「それに…彼だけじゃありません。あの日から更に4年前、彼の同期もやっぱり、殉職しました。」
柊羽の話にもう1人登場人物がいるとは思わなかった。
そしてそれが、自分がよく知る人物だということも勿論予想できたわけがなく、安室は自分の鼓動が早くなるのを感じた。
「当時2人は同じ課に所属していて、仕事終わりによく私のバイト先に呑みに来てくれて。その頃は私別の彼がいたしただの知り合いだったんですけど、2人と話すのはとっても楽しくて。まあほとんど警察学校時代にバカやったーって話でしたけどね。あの日も、約束していました。」
話していると自然と楽しそうに昔話をするあの2人が脳裏に浮かんで、頬が緩む。
『今日はでけぇヤマがあるから、二人分の席ととびっきり美味い酒、とっておいてもらえるか?』
いつもの酒の席でのものとは違うピリッとした声色から、なんとなくほんとにヤバいんだろうなと思った。
『分かりました!気をつけてね』
『ははっ、お前が不安そうな声出してんじゃねぇよ。…ちゃんと俺らの帰る場所、用意しといてくれ』