第9章 リンクする思い出
目当ての人物にコールする。
機械音が鳴り響き、5コール目で途切れた。
「柊羽さん?無事に帰れました?」
「それはっ、こっちの台詞です!!!」
この期に及んでまだこちらを気にかける安室に、柊羽は思わず声を荒らげた。安室は予想外のことに「え?」と声が漏れていた。
「コナンくんから聞きました。車が衝突したって。」
「あぁ…」
「あぁ、じゃないです!」
その事か、と納得するようにつぶやく安室にまた苛立ちが募るのを感じていた。
「自分から突っ込んだって本当ですか?」
「ええ」
「そうしなきゃ、いけなかったんですか?」
「その時は、それがベストだと思ってやりました。」
「もし、何かあったら…って、考えなかったんですか…っ?」
少しも反省の色が見えない安室に、自分の気持ちが伝わらないことが悔しくて気付けば涙が流れていた。
自分はただの偽装彼女で、安室のすることにあれこれ口を出す権利などないことは重々承知だ。
こんな面倒な、重たい女のようなことを言えば、実は少しだけ居心地がいいと感じていた今の関係はやめようと言われるかもしれない。
それでも分かって欲しいと思うくらいには、柊羽にとって安室は大切な人物になっていた。
「柊羽さん」
あぁ、きっと、呆れられたんだろう。
次に来るであろう言葉を受け入れるために、深呼吸。
「僕はまだ、死ぬつもりはありませんよ。」
紡がれた言葉は、予想していたものとは違っていて。
「柊羽さんは、何かを失うことが、怖いんですよね?」
「それは…誰だってそうです。」
「ふふ、強情だなあ。では改めます。人一倍、怖いんでしょう?」
柊羽は自分をまるごと包み込むかのような優しさに、先程までの自分の言動が急に恥ずかしくなった。最後の問いには答えることはしなかったが、安室は構わず続ける。
「写真の彼、ですか?」
「!!」
まさかそこまで、見抜かれていたなんて。
「彼は、警察関係者かなにか?」
「な、んで…」
柊羽は無意識に心の声を漏らしているのかと自分を疑った。