第9章 リンクする思い出
柊羽がそんな新しい彼の一面に気を取られていると、パァン!という聞き慣れない音に思考は遮られた。
本物は、聞いたことがないから分からない。
だがなんとなく、その正体は分かってしまった。
一目散に音の出処であるトイレに駆け出すコナンがスローモーションに見えた。
扉を開けて大丈夫か?コナンを止めようという気持ちとは裏腹に、恐怖で声が出ない。
そんな心配をよそにトイレの扉が開かれた。恐れていた2発目の音は鳴ることはなく、そこには体を拘束され震える女性と、拳銃を自分に向けて事途切れている一人の男がいた。
「やっ…!」
目を背けたくなる光景。
病院や葬儀場以外で初めて見る、死体。
その後ろに広がる血の海が余計に恐怖心を煽り、柊羽は込み上げる吐き気に思わず口に手を当てた。
「柊羽っ」
「透さ…ごめ、なさい…」
「謝らないでください。元はと言えば僕が連れ出してしまったばっかりに…僕こそすみません。ポアロに戻っていてください。」
「うぅ…そう、させてもらいます」
「下まで一緒に行きましょう。すみません毛利さん、彼女気分が悪いみたいで…ポアロに連れていきます。僕は警察が来るまでに戻りますので」
「ここは俺らだけで問題ねぇだろ。気にしないで休んどけよ、柊羽」
別に階段を降りるくらい…と思ったが口にはせず、柊羽は素直に安室に従った。
ポアロに入るなり、物凄い勢いで梓が駆け寄ってきた。
「柊羽さん!?怪我は!?まさかさっきの音って…」
下の階にも銃声は聞こえていたようで、ぐったりとする柊羽を見て梓は血の気が引くのを感じた。
「柊羽さんは無事です。ただ少し気分が悪いみたいなのでここで休ませてください。僕は戻らないと…すみません、傍にいられなくて」
「私は大丈夫です。小五郎さんのサポート、しっかり」
「ありがとうございます。すみません梓さん、柊羽さんのこと頼みます。」
そう残し、安室は現場へと戻って行った。
結局その日はもう何もする気になれず、早々にポアロを後にしてベッドに身を投げ出した。