第2章 喫茶ポアロにて
柊羽の姿を確認し、真っ先に梓が駆け寄った。
「柊羽さーん!!急にパッタリ来なくなるから心配したんですよ!!何かあったんですか?」
「あはは、ごめんね~ちょっと風邪をこじらせちゃってさ、自宅謹慎だったの。」
「えっ、もう大丈夫ですか!?」
「うん、もうバッチリ!だからまた今日から美味しいご飯よろしくね。」
「勿論!!あ、いつものでいいですか?いいですよね?すぐ用意します!あーあと、また突然来なくなると不安なので後で連絡先教えてください!!」
バタバタと厨房へ向かう梓を見て、騒がしくても不思議と嫌な気はしなかった。
それどころか、やっぱり可愛いな、と頬が緩んでしまっていた。
柊羽は、出会い頭の梓の勢いや久しぶりに感じる温かいこの場所に気を取られ、他の2人には気づかないままいつも座っている席についた。
そしてそのまま、1週間の間に溜まった仕事を片付けようとパソコンを起動する。
安室は、意図的ではなかったにしろ梓が言っていたように自分をスルーしたこの客に、多少なりとも興味が湧いた。
あくまでも自然に、他の誰にでもするように、お冷やをテーブルに運ぶことでファーストコンタクトをはかることにした。
柊羽は視界の端で店員らしき影が動くのを感じ、梓が戻ってきたと思ってそちらに顔を向けるとそこにいたのは見ず知らずの男だった。
顔を向けた瞬間目が合い、心臓がドクンと跳ねた。
それは可愛らしい恋のはじまりのようなトキメキとは程遠く、恐怖、ただそれだけだった。
動揺を隠すかのようにパッと顔を背け、落ち着け、と自分に言い聞かせた。
(大丈夫、こわくない。彼はエプロンをしているし、ただのポアロの店員だ。大丈夫。)
はぁっと、大きく深呼吸をして、気持ちを整えると
コト、とお冷やのグラスがテーブルに置かれた。
早くこの時間が過ぎ去って欲しい。そう思えば思うほど、柊羽にはこの瞬間が嫌という程スローモーションに見えて仕方がなかった。
顔は見ることが出来ない。
が、無視することもどうかと思い、ぎゅっと目を瞑って
「ありがとう、ございます」
とか細い声でお礼を伝えた。