第9章 リンクする思い出
「柊羽さん?」
小五郎の言葉に反応しない柊羽に、安室が呼びかける。
「…この、人の、恋人とか家族って…どんな気持ちで待ってるのかなぁ?」
「え?」
柊羽はテレビに視線を向けたまま、独り言のように呟いた。
が、すぐに4人からの訝しげな視線に気付いてハッとする。
「あ、えーっと…警察官って危険と隣り合わせで、大変だなぁって。そんな職業に就こうと思える人って凄いなあって!」
「そ、そうだなぁ!ま、俺は断念したけどな!」
故意か偶然か、小五郎のおかげで微妙な空気は断ち切られた。
なにか良くない方向の感情を飲み込んだことは安室にも分かったが、それは今追求することではないかと思い、話題を変えてみる。
「そういえば、今日来られる依頼人はどんな事件を?」
「え?何で知ってんだ?そんな事…」
安室曰く、小五郎の身支度が整っていること、沖野ヨーコのライブを見ていないことからそう推理したらしいが、ライブの方はただ忘れていただけらしくいい大人が大騒ぎしていた。
そんな様子を見て、柊羽が思わずフッと笑ったのを、二人の探偵はしっかりと確認した。
(とりあえずは、大丈夫か?今回はおっちゃんに感謝だな)
柊羽のおかしな言動の原因が何となく分かっていたコナンは、一人胸をなでおろした。
どうやら今回の依頼人はネットのお客さん第一号だとか。
探偵事務所のホームページ立ち上げには、webデザイナーの柊羽も少し関わっていたのでなんとなーく気分がいい。
そんな話をしていると、小五郎の携帯が鳴る。
それは依頼人からのメールで、会う場所を変えて欲しいという旨が書かれていた。面倒くさがる父親を蘭が説得し、指定されたコロンボに向かうことになったようだ。差し入れのサンドイッチは毛利家の夕飯になるらしい。
「僕も同席して構いませんか?今日のシフトはお昼までですし…柊羽さんも、たまにはいかがです?」
「え、いいんですか?小五郎さん」
実は少し、探偵業というものが気になっていた柊羽。
それからポアロ以外での安室透も見てみたかったというのも少しある。
小五郎は、授業料を対価に同行を許可してくれた。