第7章 偽装工作
沖矢は慣れた手つきでタッパーを出して肉じゃがを移し、鍋を空にした。
「では私はそろそろ…課題が残っていまして」
(ん?学生?っていうかほんとにお裾分けだけしにきたの?)
今度は素直に疑問を投げかけてみようかという時に、柊羽のスマホが着信を告げた。一言「すみません」と断り少し離れて画面を見ると『安室透』と表示されていた。
「はい」
『あ、柊羽さん?もうご自宅ですか?』
「いえ、まだ知り合いのところにコナンくんと…何かありました?」
『無事に帰れたか心配で』
「えっ…」
その瞬間、頬に朱色がさしたのを周りの者は見逃さなかった。
『ふふっ』
「あ…!からかいましたね!」
『心配なのは本当ですけど、柊羽さん、荷物忘れていませんか?』
「え、あ!ほんとだ、忘れてます」
『もしご自宅なら帰りにお届けしようかと思ったんですが…』
「近くにいるので戻ります!」
『そうですか、じゃあお待ちしてます。気をつけて。』
柊羽は電話を切り振り返ると、全員の視線が自分に注がれていることに気づく。
「安室の兄ちゃん?」
「随分親しそうね」
たかが小学生2人だというのに、なんだこの重圧は…哀に至ってはさっきまでの重い雰囲気はどうした、と柊羽は尻込みした。
「荷物をポアロに忘れちゃって…取りに戻るね。あ、沖矢さん、なんか帰るところ引き止めちゃったみたいですみません。じゃ!」
と、逃げるようにこの場を去った。
「あ、柊羽姉ちゃん!…ったく、俺もそっちに帰るってのに」
「ポアロの店員さんには、心を許してるのね」
「んぁ?あぁ、いつの間にか仲良くなってたよ」
「へぇ…」
「まあそこに関しては、いいんじゃねぇか?いつまでも閉じこもってるよりは。ただ相手がなぁー…」
「…では今度こそ、私も失礼しますね」
2人は沖矢の存在を忘れていたのか、驚いた様子を見せた。
元から感情の読みにくいこの男は、やはり何を考えているのか分からないまま工藤邸へと戻って行った。
「何なの、あの人」
「ただの大学院生だろ?大丈夫だよ、害はないって!」
「…はぁ。」
哀は面倒くさい、と思いっきり顔に出して溜息をつき、テレビの前のソファへ腰掛けた。
(色々と大変じゃのう、新一)
博士は一部始終を保護者のように見守っていた。