第7章 偽装工作
この手の話題にはどうも解決策を見出すのが苦手なコナンや、不用意な発言でまた哀に小言を言われそうな博士は黙って2人を見ているだけだった。
これは自分で何とかせねば、と気合を入れたところで救世主と思われる気配がした。
「おや?…お邪魔でしたか?」
キョトン、とした表情でそう発した男はエプロンにミトンをつけて鍋持参という、なんともこの場に不釣り合いな格好で現れた。
今の状況に置かれていなければつっこんでいたかもしれないが、生憎そんな余裕もない柊羽は普通に会話を続けることを選択した。
「いえ!大丈夫です。というか…どちら様?」
「これは失礼しました。訳あって今お隣のお宅に住まわせてもらっている沖矢です。」
「え?隣って…新一の?」
「はい。」
「へぇー…。あ、すみません私も名乗らずに。新一の従姉妹の坂巻柊羽です。あんまりこっちには来ることないんですが、よろしくお願いします。」
「こちらこそ。」
当然、柊羽はこの人物のことを怪しまないわけがなかったが、深入りしてまた新たな秘密を共有することとなれば、それがバレないようにするために使うであろう労力と好奇心を天秤にかけ、探るのをやめた。
「ところで昴さん、それなぁに?」
話を逸らしたかったのか、ずっと鍋を持ったままであることに気をつかったのか、コナンが鍋を覗き込む。下の名前は昴というのか、と柊羽は情報を整理していた。
「肉じゃがです。改良しようと思って調味料の分量を調整しながらやっていたら作りすぎてしまって…上手くできたのでお裾分けを、と思いまして。」
「いつもすまんのぉ~!どれどれちょっと味見を…んん!絶品じゃのう!」
柊羽はそこでふと、いつもなら博士の味見に制止の声をあげそうな少女が黙っていることが気になって姿を探した。
すると輪から外れたソファで座っている横顔を見つけた。
何やら考え込んでいるような、思い詰めているような表情に見える気がする。さっきまでは普通だったところを見ると、原因はこの沖矢という男なのか。だとすればやっぱり何かある、ならば余計関わりたくはない、でも哀のことは気になる、でも…と、直ぐに答えを出すことはできなかった。