第7章 偽装工作
「ところで博士、あれ出来たか?」
「おぉ、そうじゃった!ホレ、しん…コナンくん」
「サンキュー。はい柊羽姉ちゃん!」
渡されたものを受け取りつつ、2人のやり取りを頭の中で反芻した。そうか、ここには新一の正体を知らない人(哀ちゃん)がいるから「新一」とは呼べなくて、私の呼び名もコナンであるときのもので…なんか面倒くさい、というかいつかボロが出そう。何も知らないでいたかったと思考をめぐらせた。
「どうしたの?探偵団バッジだけど…不満?」
「…え?あぁ!いや、なんで私に、と思って」
邪念のせいで新一に余計な誤解を生んでおり、柊羽は咄嗟にそれっぽい言葉で取り繕った。
「距離は限られるけど、使える範囲内にいればスマホよりずっと使い勝手がいいでしょ?ホントは今回の事件解決に役立つかもと思って博士に頼んでおいたんだけど、まさかこんなに早く解決するとは思わなかったからさ。でも折角博士が作ってくれたんだし、良かったら持っててよ!」
「ほんと敵わないなぁ。ありがとうね、コナンくん」
新一と呼ばないように意識しすぎて不自然にならなかったか不安がよぎった。
動揺を悟られないよう、「あー。あー。テスト」と、近くにいるコナンのバッジと通信したりしてみる。
「で?今回は何をやらかしたの?」
と、大人びた少女に聞かれた。
どうやら、コナンから説教の内容までは聞かされていなかったらしい。
「やらかしたって人聞き悪いなあ。一応私被害者だよ?」
灰原哀が何かしら大きな隠し事をしていることは明らかだったが、それでも柊羽はこの少女が悪事を働いているようには見えなかったし、何よりも話すのが好きだった。波長が合う、という言葉がしっくりくるような気がしていた。
やはり彼女に隠し事はできなくて、先程は他言無用とコナンに対し内心悪態をついていた柊羽だが、気がつけば一部始終を話していた。安室の偽装彼氏発言はもう必要ないだろうしなんとなく伏せていたが。
「はぁ…もっと自覚した方がいいんじゃない?こっちがヒヤヒヤするわ。」
「じ、自覚って何を…」
「容姿。私が男でも放っとかないわ。」
「え…」
小学生の女の子相手に赤面をする柊羽。
頬杖をつき飄々としている哀。
それはなんとも異様な光景であった。