第7章 偽装工作
「好きだから、ですよ。勿論。」
柊羽は意を決して前を向く。
その真っ直ぐな瞳に、今度は安室が驚く番だった。
「この間までは!そんな関係に見えなかった!!それにコイツはモテるだろ?きっと君を悲しませるに決まってる!」
「そりゃ、最近ですから…たしかに安室さんはモテます。でもそれはそれだけの器量があるからで、私は分け隔てなく気を配れる彼を尊敬しています。そんな彼だから、す、好きになったんです!」
その場にいる誰もが固唾を飲んで見守っていた。
男は悔しそうに顔を顰め、両手を強く握りワナワナと震えている。
「ダメだ!君は、俺が見つけたんだ!!」
「…ゃっ!、」
男は突然柊羽に掴みかかろうと手を伸ばし、柊羽は恐怖で目を瞑ってしまった。
次の瞬間感じたのは、覚悟していた前からの衝撃ではなかった。
「ストーカー規制法違反に、暴行罪もプラスしたいですか?」
「いっ!痛ぇ!!」
安室は柊羽の肩を抱きながら、とびっきりの笑顔で男の手を捻りあげていた。
「今ここで通報することもできますが、自首した方があなたの為だ。」
「くそ、離せっ!」
「逃げるつもりですか?別に構いませんが…その時はこの音声、警察に届けますので悪しからず。」
と、自分のスマホを取り出す安室。
その画面は録音中であることを示していた。
どこまでも抜かりない。絶対に敵に回したくないと、全員が思う。
「…っくそぉぉおぉぉ!」
「ふぅ、仕方ないな…」
ありったけの力で安室の手を振り払い、殴りかかろうとしてきた相手の鳩尾目掛けて安室は拳を突き上げた。
男が気を失い地面に伏せたのを確認すると、安室は110番をコールした。
途端、柊羽は全身の力が抜けてよろめき、ヘタリとその場に座り込む。
「「柊羽さんっ!」」
「柊羽姉ちゃん、大丈夫!?」
「み、皆…ごめ…腰抜けた」
情けない、と眉を八の字にして笑う柊羽に皆安堵した。
そこへ電話を終えた安室も合流する。
「よく頑張りましたね。ほら、 汚れますよ。こちらに。」
と手を差し伸べ、柊羽を椅子に座らせた。