第16章 純黒の悪夢
人の並に従って建物の方に向かっていると、それに逆らって走ってくる迷子の男の子の母親をみつけ、男の子を無事に母親のもとに返すことができた。
他にも逃げ遅れている人がいないかどうか注意しながら、柊羽もなんとか建物内にたどり着く。すると、
「柊羽お姉さま!?」「柊羽さん!!」
「園子ちゃん、蘭ちゃん!」
そこにいたのはよく知る二人。
2人は不安げな顔で柊羽に駆け寄る。
「お姉さま、なんで一人でこんなところに!?」
「そうですよ!でも良かったです、無事で。もしかして、新一と一緒でした?」
「え?新ちゃん?いや…」
そういえば、探偵バッジで話したはずだが先程安室とは一緒にいなかった。
ではどこに行ったのだろうかとつい考え込んでしまった柊羽を、二人はまた心配そうに見つめていた。
「あっ、ごめん!新ちゃんのことは分からないけど、私は透さんと来てて…」
「きゃー!デートですか!?」
「でもそれなら尚更何で一人なんですか?」
こういう所、蘭は目敏いなと思う。
「この騒ぎでしょ?探偵の血が騒ぐみたいで…」
そう苦笑してみせた。
「どいつもこいつも、彼女放ったらかして探偵なんて!!」
その答えに何故か憤怒するのは園子であった。
流れるようなやり取りでつい大事なことを伝え忘れていたことに柊羽はハッとした。
「そうだ、私ね、記憶戻ったの」
「「え!?」」
「時間がかかってごめんね。記憶が無い間も、いつも通り接してくれてありがとう」
「「良かった~!!」」
感謝を述べつつ微笑めば、二人は勢いよく柊羽に抱きついてきて思わずよろけてしまった。
けれどそんな二人の優しさが嬉しくて、また目頭がツンとした。
「でも折角のそんな大事な時に置いていくなんて、やっぱり男としてどうかと思います!」
「ふふ、そうだね。終わったらワガママでも言っちゃおうかな…っ!?」
二人とのガールズトークが楽しくてつい意識がそちらに向いていたが、ドゴォン!!という異様な音に三人は窓ガラスの方へ駆け寄った。
そこで目にしたのは信じられない光景だった。
(嘘でしょ、観覧車が…!)
あろうことか、何らかの衝撃で観覧車が車軸から外れてしまったのだ。
「透さん…!!」
ただ見守ることしかできない自分の無力さを恨んだ。