第16章 純黒の悪夢
安室の言う通りに柊羽は観覧車の外へ抜け出した。
来場者の安全確保という使命は理解しつつも、やはり先程の会話が忘れられない。
(まさか陣平さんと透さんが…)
そんな奇跡じみた巡り合わせがあるのだろうか。
それとも、
(陣平さんが、引き合わせてくれたのかな)
そう考える方が、何故だかしっくり来た。
『ったくどこで何やってんだか、あのパツキン大先生はよぉ』
『ぱ、パツキン…?』
『あぁ、ほらあれだよ、‘’ゼロさん‘’。もー陣平ちゃん、明日非番だからって飲みすぎ!』
*
『萩原のやつ、フザケやがって…アイツらに何て言やぁいいんだよ、ったく』
『同期の方々は葬儀に呼ばないんですか?』
『1人は来たがな。あとの2人は来れねぇってのはなんとなく分かってた』
*
『やだっ、行かないで!!』
『やっとお前のワガママが聞けたな』
『じゃあ…!』
『…お前なら大丈夫だ。あそうだ…もし、奇跡でも起きてアイツらに会うことがあったら、よろしく伝えてくれ。』
『そんな、もう最期みたいな…解体して、戻ってきてよ!』
*
『ゼロ…昔安室さんがそう呼ばれてたらしい。柊羽姉ちゃん何か知らない?』
(…!!!ゼロ、そっか…そっか…!!!)
溢れ出す思い出で点と点がつながっていき、柊羽は走りながら涙を止めることが出来なかった。
するとある声がそんな柊羽の意識を現実へと引き戻し、慌てて涙を拭う。
「…ぁー!ママぁー!!!!」
小さな子供の声だ。恐らくこの騒ぎで母親とはぐれてしまったのだろう。
柊羽は耳を凝らし、声の出処を探った。
(見つけた!)
その声の主は、屋外の飲食スペースに置いてあるテーブルの下で丸くなり、必死で母親を呼んでいた。
「ボク!」
「おねぇちゃ…ひぐっ」
「もう大丈夫、心配いらないよ」
__『もう大丈夫だ、心配ない』
いつも自分が助けられていた台詞で、今度は自分が誰かを助けるなんて。
同じ空間にいなくても背中を押してくれるスーパーヒーローのような存在に、思わずこの場にそぐわぬ笑みが漏れた。
「お姉ちゃん?」
「ふふっ、ごめん、おかしいよね。さ、ママのところに行こう?」
柊羽は少年の手を引いて走り出した。