第16章 純黒の悪夢
「ここで何をっ、早く外に!!」
「む、りです!」
「ここは危険なんだ、頼むから…」
「なら、透さんも一緒に外に行ってくれますか?」
「それは…」
「危険なことはしないでって、言ったのに」
柊羽は俯いてこそいたが、声色からどんな表情をしているかは明白だった。
そしてその言葉から、彼女が記憶を取り戻したということも確信できた。
「やっぱり、記憶が戻ったんだな」
「うん、だからね、観覧車が大嫌いってことも思い出したの」
「松田、か」
その名を紡げば、柊羽が驚いたように顔を上げた。
「ど、して…名前…」
元カレの話はしたが、名前までは教えていなかったはず。
理由を問えば、安室の口から零れたのは衝撃の事実で。
「学生時代の悪友なんだ。黙っててすまない、本当は写真を見た時から気づいていた」
「うそ…」
「っと、その話もゆっくりしたい所だが本当に時間がないんだ。お咎めは、無事に全てが終わった時に受けるさ。だから柊羽、君に外の人たちの安全確保を頼みたい」
「でも!…っ!?」
「柊羽っ!!」
それはつまり、自分だけ安全なところにいろということじゃないかと抗議の声を上げようとした途端に響く、夥しい数の銃声。
安室は咄嗟に柊羽の頭を抱え込むようにして地面へ突っ伏した。
「大丈夫か?」
「うん、平気。だから私も…!」
「柊羽。信頼できる君にしか頼めない。外にいる人たちにも、帰りを待っている大切な人がいるだろ?」
「そんな言い方、狡い」
「僕だって、柊羽に帰る場所を用意して待っていて欲しいんだ。どんなことがあっても必ず戻る。約束、しよう」
そう言って安室は小指を差し出した。
「戻ってこなかったら、絶対に許さないから!」
柊羽は寂しさややるせなさを悪態で誤魔化しながら、自らも小指を差し出し、絡めた。
「上等。しくじったら天国で松田にドヤされそうだ。そんなのは勘弁だからな」
「…っうん。終わったらたくさん話したいこと、あるから。」
「柊羽こそ、外だって安全とは言い切れない。慎重にな。」
そう言って安室は繋がれた小指にそっと口付けた。
何がなんでも約束する、そう心に誓いながら。