第16章 純黒の悪夢
『え、えーと…』
こと事件に関してはとにかく頭がキレる名探偵。
だがこういった誤魔化しは何故か異常に下手だった。
小さな頃から知っている柊羽は、コナンが何かを隠そうとしているとすぐさま察することが出来た。
「ペンチって何?」
『いや、だから…』
『コナンくん!時間が無い、急いでくれ!』
コナンは頭を抱えつつも、予断を許されないこの状況下では安室に近づく他選択肢などなかった。
コナンが安室にペンチを渡しているであろう、僅かな時間でありながら柊羽にとっては恐ろしいほど長く感じられたその瞬間。
柊羽の心臓はバクバクと脈打ち、まるで自分のものでは無いような感覚に陥ったほど。
(もしかして、爆弾…?)
観覧車。
爆弾。
そのふたつの要素だけで、柊羽の心をかき乱すには十分すぎた。
「透さん…?」
思わず漏れたその声に、安室は視線は目の前のものに向けたまま僅かに目を見開いた。
「観覧車に…いるの?」
『…あぁ』
「爆弾、の、解体…?」
『…あぁ、でも大丈夫だ。すぐに解体してそっちに…』
「っ当たり前でしょ!!」
突然声を荒らげたことに、安室もコナンも、そして柊羽自身も驚いていた。
尤も安室は一刻を争う場面だった為固まったのは一瞬だったが。
『柊羽…姉ちゃん?』
「………ないから」
『へ?』
「観覧車で爆発に巻き込まれるなんて許さないからっ!」
『…っ!』
『あれ、切れた!ちょっと、柊羽姉ちゃん!?』
そう叫んだ柊羽は、走り出していた。
「ったく…柊羽姉のやつ…」
「思い出したんだな」
「え?」
「記憶、戻ったんだろう?」
「あ、あぁ…そうみたいだよ」
「益々失敗出来なくなった。僕も観覧車で…なんて、冗談じゃ済まされないよな」
「あ…ボク聞いたことがあるよ。柊羽姉ちゃんが前付き合ってた…」
「あぁ。実は昔の悪友でね。爆弾処理のノウハウを教わったのはそいつからなんだ。失敗したらあの世でまた殴られそうだ。」
そう語る安室の表情はとても柔らかく、これなら爆弾の方は大丈夫そうだとコナンは思った。