第16章 純黒の悪夢
段々息も上がり、看護師の声も遠のいていく。
代わりにたくさんの声と映像が脳内に流れ込んできた。
『僕はまだ死ぬつもりはない』
『ったくオメェーはいっつもいっつも心配かけやがって!』
『今回は一体何をやらかしたの?』
『柊羽さぁーん!聞いてくださいよ!安室さんってば…』
あぁ、そうだ。
私はなんて大切なものを忘れていたんだろうか。
「っつぅ…はっ、はぁっ」
「ちょっと待ってね、今…」
「だい、じょうぶ、です…!」
「で、でも…」
救急車でも呼びそうな勢いの看護師を、なんとか引き止めた。
頭は痛いし、苦しい。
けれどきっと大丈夫。何故かそんな自信が柊羽にはあった。
これは、乗り越えなければいけない試練なんだと、そう思っていた。
『悪ぃな。お前のこと治すって約束したのに…』
『やっ、やだ!行かないで、お願いっ!』
『はっ。やっとお前のワガママ聞けたぜ、お前我慢しすぎだっての。』
『じゃあ!』
『…お前なら大丈夫だ』
『萩原のやつ、ふざけやがって…』
『守れない約束なんて、すんなよな…ったく』
『あ、柊羽ちゃーん!来たよ~!』
『萩原さん松田さん!特等席用意してますよ~』
『サンキュー!』
『あははっ、松田さん見た目通りヤンチャだったんですね!』
『ぶっ』
『オイ、見た目通りってなんだ』
『あ、すいません…』
『特にアイツとは犬猿の仲でね~』
『アイツってもしかして、ゼロさん?』
『そーそー!柊羽ちゃんよく覚えてたね!』
『そりゃー2人からこんなに聞かれたら…』
『降谷が勝手につっかかってきたんだろーが』
『んー?まぁそういうことにしとくかぁ~』
観覧車は、大っ嫌いだ。
大切な人を失った、忘れたくても忘れられないあの光景。
それを、今の今まで忘れていた自分が情けなくて、そして久しぶりに見た故人の顔に胸が締め付けられて
息苦しさはいつしか嗚咽に変わっていた。