第16章 純黒の悪夢
二人は再び戦闘態勢に入ったが、それはある声に遮られた。
「赤井さん!!そこにいるんでしょ!?力を貸して!車軸に爆弾が仕掛けられてるんだ!!」
怯みつつもなお赤井へ睨みをきかせる安室だったが、赤井は冷静にそれを制した。
落ち着け、とでも言うように首を横に振る。
安室も赤井には並々ならぬ思いがあれど、一般人に危険が及ぶともなれば優先すべきことは明白だった。
「本当かコナンくん!」
「安室さん!?どうやってここに…」
「話はあとだ!」
「う、うん…とにかく爆弾を…」
「あぁ。FBIとすぐに行く!」
コナンはその言葉に目を丸くした。
あの安室から、そんな台詞が聞けるとは。
けれどこの状況で、二人が協力してくれるのはこの上なく心強い。
三人は起爆装置と思われるモノの前で落ち合うことにした。
*
「………ん、」
医務室では、柊羽が漸く目を覚ましたところだった。
「あら、気がついた?」
「え、と…ここは…」
確か自分は拘束されていて、安室に、キスをされて…?
なんだか記憶が曖昧だが、こんな所にはいなかったはず。
「東都水族館の医務室よ?」
「す、水族館?」
「ふふっ、疲れて寝てしまったって。彼とっても心配していたわよ。ちょっと用事を済ませてくるからそれまでここで休ませてやってくれって。」
「は、はぁ…」
彼とは、安室だろうか。
腑に落ちない点は多いけれど、看護師の言う通り今は待っておくしかないか…と考えるのをやめた。
無機質な医務室のカーテンの隙間から、キラキラと何かが光るのが見えた。
何の気なしにそのカーテンを捲って外を眺める。
幸せそうな家族、恋人、学生たち。
そんな姿を見ると自然と口角が上がってしまう。
続いて景色へと目をやるとそこには…
「観覧車…」
「ん?あぁ、綺麗でしょー?ここは水族館だけど、観覧車もすっごく人気なのよ!あとで彼と乗るといいわ!」
「…っぅう、」
「え?ちょっと!どうしたの!?」
心配そうに駆け寄る看護師の裾をギュッと握った。
「あ、たま…いたっ…」
痛すぎて最後まで言葉にならない。
込み上げる得体の知れないものに、恐怖した。